保険料を納付していない期間があります。障害年金はもらえないでしょうか。
保険料納付要件が問われない請求や、状況によって保険料納付要件を満たせる場合など、様々なケースがあります。
未納期間が長いと難しい
障害年金の受給には、3つの要件(「初診日要件」「保険料納付要件」「障害程度要件」)を満たす必要があります。
保険料を納付していない期間が長いと「保険料納付要件」を満たせないことが多く、その場合は障害年金はあきらめざるを得ません。
しかし、中には、保険料納付要件を問われないケースや、保険料を全部納付していなくても保険料納付要件を満たせるケースがあります。
主なケースは以下のとおりです。
- 初診日が20歳前にある
- 免除・納付猶予の申請をしてある
- 未納期間が短い
- 初診日が異なっていた
これらのケースについて、順に詳しく解説します。
初診日が20歳前にある場合
未納があっても障害年金を受給できる代表的なケースは、初診日が20歳前にある場合です。
納付要件を問われないケース
初診日が20歳の誕生日の前日よりも前にあり、かつ厚生年金保険にも加入していない期間の場合、保険料納付要件は問われません。
この場合、請求自体が20歳以降であっても大丈夫です。
初診日が厚生年金保険に加入していた期間にある場合は、初診日が20歳前であっても保険料納付要件を満たす必要があります。
例えば、10月15日が誕生日の場合、10月13日までに初診日があれば保険料納付要件は問われません。
納付要件は問われるが、実質的には納付要件を問われないのと同じになるケース
上記の例の場合、原則的には、初診日が10月14日以降の場合は保険料納付要件を満たす必要があります。
しかし、実際には、もう少し先まで保険料納付要件を問われない期間は続きます。
保険料納付要件は、「初診日の属する月の前々月までに被保険者期間がある場合」に「その被保険者期間の納付状況」について要件を満たす必要が生じます。
言い換えれば、「初診日の属する月の前々月までの納付状況を見る」ということです。
10月15日が誕生日の場合、被保険者期間は10月14日から始まります。
初診日が10月中にある場合の前々月は8月、初診日が11月中にある場合の前々月は9月となり、8月も9月も、いずれもまだ被保険者期間ではありません。
被保険者でなければ保険料を納付する必要はありませんから、保険料納付要件も問われません。
仮に10月分の保険料を納付しておらず、11月に初診日があっても、納付状況は9月分までの状況しか見ないので、保険料納付要件は問われないことになります。
納付要件が問われるケース
上記の例の場合、現実としては、20歳の誕生日の前日が属する月(10月)の翌々月以降(12月以降)に初診日がある場合から保険料納付要件を問われることになります。
このように見ていくと、20歳前に初診日があると保険料納付要件を問われないので、得するようにも感じますが、この「20歳前傷病による障害基礎年金」は、保険料納付要件を問われない代わりに、 独自の所得制限や支給制限があることは覚えておきましょう。
20歳前傷病による障害基礎年金は、前年の所得に応じて全額または半額が支給停止になったり、海外に居住すると支給停止になったりします。
免除・納付猶予の申請をしてある場合
そのほかに、保険料を全部納付していなくても保険料納付要件を満たせる可能性のあるケースとしては、 保険料の免除申請や納付猶予申請をしてあった場合があります。
保険料の免除期間や納付猶予期間は、年金保険料を全額納付しているわけではありませんが、これを未納期間とは言いません。
未納というのは、保険料を納付しなければならないのに、納付をしていないことを指します。保険料の納付を免除された期間や、納付を猶予された期間は、とりあえずは納付をしなくても大丈夫と認められた期間です。納付しなければならない期間とは異なります。
免除期間や納付猶予期間は、保険料納付要件を見るときは納付期間と同様に扱われるので、保険料納付要件を満たせる場合があるのです。
全部免除ではなく一部免除である場合は、免除されていない残りの部分を納付している場合のみ、免除期間とされます。
例えば、初診日の前々月までの1年間がすべて免除期間である場合は、1年間ずっと保険料を納付していませんが、保険料納付要件は満たせることになります。
ただし注意点があります。
保険料納付要件は「初診日の前日」の段階でみるので、保険料を初診日の前日までに納付している必要があるのと同様に、 免除や納付猶予についても、初診日の前日までに免除や納付猶予の申請をしてあることが必要です。
初診日の当日以降に免除や納付猶予の申請をしても、(申請が通れば)記録上は免除期間や納付猶予期間にはなりますが、保険料納付要件は満たさないことになります。
記録を確認する際は、いつ申請したかまで確認しましょう。
未納期間が短い場合
保険料の納付要件の原則は、初診日の前日において「20歳に達した日(その前から被保険者だった場合はその日)の属する月~初診日の属する月の前々月までの期間のうち、 3分の2以上が保険料納付済期間または保険料免除期間・納付猶予期間であること」です。
すなわち、全期間を全額納付してあることまでは求められていません。
未納期間があったとしても、未納期間が全体の3分の1以下の短い期間だけならば、保険料納付要件を満たせます。
例えば、50歳の誕生日の頃が初診日だった場合、納付すべき期間は20歳から50歳までの30年間です。この30年間のうち、納付(または免除・納付猶予)期間が20年以上あれば、納付要件を満たせます。
この場合なら、30年間のうちの10年が未納だったとしても、保険料納付要件を満たせることになります。
社労士 小川
初診日が異なっていた場合
保険料納付要件は初診日の前日の段階で見ます。つまり、初診日が異なると保険料納付要件を見るべき期間も異なってきます。
対象となる傷病について、〇月△日が初診日だと思っていたが、よく調べてみたら自分が思っていた日よりも前に受診していた(●月▲日に受診していた)ことが判明すると、初診日がずれることになります。(●月▲日が正しい初診日になる)
この場合、〇月△日では保険料納付要件を満たせなくても、●月▲日なら保険料納付要件を満たせるかもしれません。
なお、完治はしていないものの安定した生活を送り、その後に再度悪化した場合は、安定した生活の期間を(医学的には治癒していないが)社会的に治癒していた期間と捉えて、悪化後に初めて受診した日が初診日になる場合があります。
社会的治癒など、初診日についての考え方は下記の記事で詳しく紹介しています。
初診日は自由に決められるわけではないので、保険料納付要件を満たせる日を探して、そこを初診日に設定するといったことは出来ません。
あきらめる前に確認してみましょう
そのほかにも、任意加入のときに加入していなかった期間が長い場合や、記録の訂正によって未納期間を受給資格期間に算入できる場合など、様々なケースがあります。
年金制度はたびたび改正されているので、丁寧に確認すると実は保険料納付要件を満たせることがあります。
保険料の納付状況や、保険料免除や納付猶予の申請状況は、年金事務所で確認することができます。 気になることがあれば、あきらめる前に年金事務所で確認するか、社会保険労務士に相談するとよいでしょう。
- 年金保険料を全部納付していなくても、保険料納付要件を満たせる場合がある。
- 20歳前に初診日がある場合は、保険料納付要件は問われない。
- 保険料免除や保険料納付猶予の申請をしてある場合や、保険料未納期間が短い場合、保険料納付要件を満たせることがある。
- 初診日が異なっていた、任意加入で加入しなかった、納付記録が訂正された等により、保険料納付要件を満たせる場合もある。
- 保険料の納付状況や保険料免除や納付猶予の申請状況などは、年金事務所で確認することができる。