こんにちは。障害年金の手続きを支援している社会保険労務士の小川早苗です。このサイトでは障害年金に関する様々な情報をお伝えしています。
今回は、令和7年の年末に報道された「認定調書の不適切な取扱い」問題の続報を取り上げます。
厚生労働省から公表された資料の中から、特に重要な「今後の対応策」について、請求者の皆さまに関わる部分を詳しく解説します。
認定調書の取扱いへの対応の経緯
今回の調査は、昨年(令和7年)12月28日に共同通信から報じられた「障害年金、医師の判定を破棄 機構職員、ひそかにやり直し」に端を発しています。
この報道は、障害年金の認定審査において、認定医が作成した支給の可否に関する判定文書(正しくは「認定調書」といいます)が、日本年金機構の職員によって適切に扱われず、一部廃棄されていた可能性があるとの指摘でした。
そこで、厚生労働省では、令和8年1月に緊急調査(調査時点で残っていた811件の記録)を行い、実際に以下の運用が確認されました。
- 記載誤り等が生じた際、別の認定医に審査を依頼し直していた
- 不要となった旧調書を一定期間保管後に廃棄していた
- 別の医師に依頼した主な理由は、対面審査が基本である中、3か月以内の決定(サービススタンダード)を守るためにスケジュール調整がつかなかったため
この緊急調査については下で詳しく解説しています。
前回の緊急調査は、報道があってから約半月後の暫定的なものであったことから、より広範な実態把握のため、令和5年4月以降に業務に携わった職員(退職者および異動者を含む)約300名を対象とした詳細なヒアリングが実施されました。そしてこのほど、その調査結果と今後の対応策が公表されました。
ヒアリング調査の結果概要
調査の結果、現場の切実な声と組織的な課題が浮き彫りになりました 。
- 意図的な結果操作なし:審査の依頼し直しは、記載誤り・認定基準との不整合、記載理由の趣旨確認、関係書類の不備や確認漏れ等により認定医に確認が必要であったためであり、意図的な結果操作(恣意的な不支給など)を裏付ける意見は確認されなかった。
- スピードと質のジレンマ:「サービススタンダード(3か月)」の遵守が組織の最優先事項となっており、職員は日々案件処理に追われ、スケジュールが合わないと別の医師に頼らざるを得ない状況にあった。
- 判断の難しさ:特に精神障害については定量的な基準が乏しく、事例の蓄積が不十分なため、担当者によって判断に幅が出やすいという課題があった。
- 職場環境:認定医と職員が一対一でやり取りする「属人的な運用」になっており、組織的なフォローやマニュアルが不足していた。
対応策について:ここが大きく変わります!
アンケート結果を踏まえ、以下の対応策が取られることとなりました。
今回の対応策の柱は、単なる「書類を捨てない」というルール作りにとどまらず、審査の「質」と「透明性」を担保する仕組みの構築にあります。
① 審査プロセスの「見える化」と「証拠の保存」
これまで問題となっていた「作り直しと破棄」を根絶するため、以下のルールが徹底されます。(令和8年1月19日より実施済み)
- 原則は「同じ医師」が修正:内容に疑義がある場合は、最初に判断した認定医に確認することを原則とする。
- 「最初の判断」もすべて保存:万が一、別の医師に依頼し直す場合でも、当初の認定調書を廃棄せず、審査書類として保存する。
- 「独断」の禁止:やむを得ず別の医師に依頼する場合は、必ず「複数認定医制度」の対象とし、より丁寧で客観性・公平性の高い審査とする。
② 「不支給」を防ぐための二重・三重のチェック体制
特に精神障害など、判断に幅が出やすい事案については、令和8年10月より、より慎重な体制が取られます。
- 不利益処分は全件を複数審査へ:不支給、支給停止、等級ダウン(減額改定)などの請求者にとって不利益となる事案は、すべて複数の認定医によるダブルチェックを義務化とする。
- 「認定審査委員会」の活用:複数の医師で意見が分かれた場合や、目安から大きく乖離するような難しい事案は、専門家による合議体(認定審査委員会)で判定する。
- 事例のデータベース化:精神障害を中心に、認定審査委員会で審議した事案等(認定事例)を事例集としてデータベース化し、認定医が等級判定に生かせるようにしていく。
③ 「スピード」よりも「丁寧な審査」を優先
これまで「3か月以内」という高い目標(サービススタンダード)が現場のプレッシャーとなり、安易な医師の変更を招いていました。
- 目標期間を「4か月」へ:複数回の審査や慎重な確認が必要な事案については、処理目標を4か月に設定し直す。
- 人員の増強: 審査を行う医療専門役や認定医の増員、事務局の体制強化を進め、一人ひとりの案件にかけられる時間を確保する。
④ 審査のデジタル化(ペーパーレス・AI活用)
現在はまだ「紙の書類」を抱えて、医師が来庁するのを待つというアナログな運用が主流です。
- デジタル化の推進:診断書の電子化や、AI活用等による省力化を検討し、物理的な制約(前回の医師が来られないから別の医師に頼む、といった状況)を解消していく。
⑤ 第三者によるモニタリング
これらの対策が「やりっぱなし」にならないよう、社会保障審議会のメンバーによるモニタリングチームが編成されます。日本年金機構が本当に改善されているか、外部の厳しい目でチェックし続ける体制です。
当事務所からのメッセージ
今回の改善策で最も評価すべき点は、「不利益な決定を下す際には、必ず複数人で慎重に判断し、そのプロセス(証拠)をすべて残す」と明言されたことです。
審査期間が1か月延びることを懸念される方もいらっしゃるかもしれませんが、「早いけれど、間違った(不当な)結果」が出るよりも、「少し時間はかかっても、正当で納得感のある結果」が出るほうが望ましいと考えます。
今回の改革が、障害年金制度への信頼を取り戻す大きな一歩になることを期待するとともに、当事務所も障害年金の専門家として、この新しいルールが現場で正しく運用されているかを厳しく見守っていきたいと思います。
参考リンク
2026年4月30日
障害年金における認定調書の取扱いについて|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/12512000/001696686.pdf
2026年1月16日
障害年金における認定調書の取扱いについて|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/12512000/001633450.pdf
2025年12月28日
【独自】障害年金、医師の判定を破棄 機構職員、ひそかにやり直し|共同通信
https://www.47news.jp/13659652.html