人格障害・神経症は障害年金の対象とされていない
障害年金は、ほとんどすべての障害を対象として支給されます。しかし例外もあります。それが人格障害と神経症です。これらの疾病では、原則として障害年金は支給しないこととされています。
では、人格障害や神経症と診断された人は障害年金を受給できないのでしょうか。ここでは、人格障害や神経症で障害年金が受給できるケースや、請求する際の留意点などを解説します。
なぜ人格障害や神経症では障害年金を受給できないのか
障害年金は、障害認定基準と照らし合わせて、障害等級に該当しているかどうかを認定することになっています。
この障害認定基準に「人格障害や神経症は原則として障害年金の認定の対象とならない」旨が記載されています。これが、人格障害や神経症では障害年金を受給できない理由です。
人格障害は、原則として認定の対象とならない。
神経症にあっては、その症状が長期間持続し、一見重症なものであっても、原則として認定の対象とならない。ただし、その臨床症状から判断して精神病の病態を示しているものについては、統合失調症又は気分(感情)障害に準じて取り扱う。なお、認定に当たっては、精神病の病態がICD-10による病態区分のどの区分に属するかを考慮し判断すること。
(障害認定基準 第8節 精神の障害 2 認定要領)
では、なぜ人格障害や神経症を障害年金の認定の対象としていないのでしょうか。
その考え方が適切かどうかは疑義のあるところだと思いますが、一説によれば、「これらの疾患には自己治癒可能性(患者がその疾患を認識し、その状態から引き返し主体的に治癒に持ち込みうることが可能であること)や、疾病利得(患者本人が心理的葛藤からの逃避あるいは現実的満足(例えば、家族の同意を得ることや、いやな仕事から逃れることができるなど)を得ていること)があり保護的環境がなくなれば疾病利得を得ることができなくなり精神症状が消失することがしばしば観察される」ことから、障害年金制度の趣旨目的にそぐわない、という考え方によるもののようです。
参照元:社会保険審査会裁決平成21年(国)134号
障害年金の対象となる精神の障害とは
認定対象外の人格障害・神経症を見る前に、まずは、障害年金の対象となる精神の障害を確認しましょう。
障害認定基準において、精神の障害は次の6つに区分されています。すなわち、この区分に該当するものは、障害年金の対象であると言えます。
- 統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害
- 気分(感情)障害
- 症状性を含む器質性精神障害
- てんかん
- 知的障害
- 発達障害
アルコール、薬物等の精神作用物質の使用による精神障害については、その原因に留意することとなっています。故意に障害を生じさせたとみなされた場合は給付制限の対象となり、支給は受けられません。
人格障害とは
認定対象外とされている人格障害とは、ICD-10(国際疾病分類)では「F60-F69 成人の人格及び行動の障害」に分類されており、パーソナリティ障害ともいわれます。人格障害には、主に次のようなものがあります。
- 妄想性パーソナリティ障害
- 統合失調質パーソナリティ障害
- 非社会性パーソナリティ障害
- 衝動型パーソナリティ障害
- 境界型パーソナリティ障害
- 演技性パーソナリティ障害
- 強迫性パーソナリティ障害
- 不安性[回避性]パーソナリティ障害
- 依存型パーソナリティ障害
- 病的賭博(ギャンブル依存症)
- 性同一性障害
神経症とは
認定対象外とされている神経症とは、ICD-10(国際疾病分類)では「F40-F48 神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害」に分類されており 、主に次のようなものがあります。
- 広場恐怖症
- 社会恐怖症(対人恐怖症)
- その他の恐怖症性不安障害
- 恐慌性障害(パニック障害)
- 全般性不安障害
- 強迫性障害
- 心的外傷後ストレス障害(PTSD)
- 適応障害
- その他の重度ストレス反応
- 解離性[転換性]障害
- 多重人格障害
- 身体表現性障害
- 神経衰弱
なお、心身症を身体表現性障害と混同される場合がありますが、心身症は身体疾患(体の病気)であり、精神の病気である身体表現性障害とは区別されます。
神経症や人格障害で障害年金を受給できる場合とは
原則には例外があります。
人格障害や神経症は、原則として障害年金の認定の対象とならないとされていますから、これには例外が存在します。
神経症であっても、障害認定基準にあるように「その臨床症状から判断して精神病の病態を示しているもの」については、統合失調症又は気分[感情]障害に準じて取り扱うこととなっています。すなわち、この場合は障害年金の対象となります。
人格障害については、障害認定基準には、神経症のようなただし書き(例外規定)はありません。しかし、人格障害においても精神病の病態を示しているものについては、神経症と同様に障害年金の対象となると考えられます。
では、精神病の病態を示しているものとは、どのような状態を指すのでしょうか。
障害認定基準では、精神病の病態に関する明確な定義は示されていません。しかし、「統合失調症又は気分[感情]障害に準じて取り扱う」と記載されていることから、ICD-10における「F20-F29 統合失調症、統合失調症型障害及び、妄想性障害」や「F30-F39 気分[感情]障害」の病態を指しているものと推測できます。
すなわち、神経症や人格障害と診断されている場合であっても、統合失調症や気分[感情]障害などの症状も併発している場合は、その臨床症状に応じて障害年金に対象になるといえます。
人格障害・神経症で障害年金を請求する場合の留意点
まず、人格障害や神経症の診断を受けている場合は、医師に、統合失調症や気分[感情]障害などの症状も併発していないか相談してみましょう。
今まで、日常生活の詳細な様子を医師に伝えていなかったという場合は、メモにまとめるなどして、普段どのようなことに困っているかを伝えてみましょう。それを踏まえた上での医師の診断を聞いてみるとよいかもしれません。
そして、統合失調症や気分[感情]障害などの症状もある場合には、その内容を診断書に明示してもらう必要があります。具体的には、以下のどちらかの記入をしてもらいましょう。
- 診断書の診断名欄に、その病態とICD-10コードを併記する
- 診断書の備考欄に、その病態とICD-10コードを記入する
処方薬の内容も、統合失調症や気分[感情]障害などの症状を示していることの有力な情報になります。抗精神病薬などが処方されている場合は、診断書に処方薬の内容も記入してもらうようにしましょう。もし記入がない場合は、お薬手帳のコピーを資料として添付することも検討します。
また、病歴・就労状況等申立書にも、人格障害や神経症による症状だけでなく、統合失調症や気分[感情]障害などによる症状も記入するように留意しましょう。