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事例30【聴神経腫瘍】障害厚生年金1級に認定された事例

聴覚障害の事例

概要

傷病名両側聴神経腫瘍
年代40代
経緯20代の頃に聞こえにくさを自覚し受診。感音性難聴や突発性難聴との診断を受け、様子を見ることに。
徐々に聞こえにくさが進み、約7年後に聴神経腫瘍と診断。
しばらく経過観察をしたのち腫瘍摘出。
現在は両耳とも聴力レベル105dBでABR反応なし。ふらつきも大きく車いすを使用。
決定年金障害厚生年金1級
年金額170万円

ご依頼までの経緯

20代の頃、会社勤務をしていましたが、出産のため退職することになりました。左耳の聞こえにくさを自覚していましたが仕事の引継ぎなどで忙しく、受診できたのは退職間際の有休消化中でした。

耳鼻科で検査を受けたところ感音性難聴とのこと。気になったので他の耳鼻科にも行きましたが、そこでは突発性難聴と言われました。いずれにしろ、出産を控えているので様子を見ることになりました。

無事に出産し子育てに忙しくしていましたが、聞こえにくさは徐々に進んでいる気がしました。さらに右耳も聞こえにくくなり、数年後に再受診。病院への紹介を受け、頭部MRIで聴神経腫瘍が見つかりました。

摘出手術も検討しましたが、手術により聴力が失われるとの話があったため、聴力が残存している間は経過観察することにしました。

腫瘍が見つかってから10年後、聴神経腫瘍を摘出。腫瘍増大により5年後に再施術。現在は両耳とも聴力レベル100dB以上でABR反応なく、ふらつきも大きいため車いすを使用しています。

この段階になってようやく障害年金の存在にたどり着き、夫が年金事務所に行って相談。当初は退職間際の受診を忘れていて、聴神経腫瘍が見つかった頃を初診日と考えていましたが、その頃では保険料納付要件を満たさないと指摘され、愕然。

夫婦で受診歴を洗い直し、そういえば退職間際に耳鼻科を受診したことを思い出したものの、どちらの耳鼻科からもカルテは残っていないとの返事で、どうしたらよいか分からなくなり、当事務所へご相談いただきました。

当事務所での対応

障害の程度としては1級であることはほぼ間違いないと思われました。したがって、障害年金の受給に必要なのは初診日の証明です。

どうしたら良いのか途方に暮れているご主人を励まし、まずは順番にやっていくことにしました。

ご主人に受診の流れを教えていただいたところ、

A耳鼻科→B耳鼻科→中断→B耳鼻科→C病院→E病院→F耳鼻科→G病院

とのことでした。

A耳鼻科とB耳鼻科からはカルテがないとの返答でした。

しかし、C病院に確認したところカルテが残っており、無事に受診状況等証明書を作成していただけました。出来上がった書類には「平成X年頃 左突発性難聴出現。平成X+7年頃 右難聴出現し、B耳鼻科受診。精査目的に当院受診。」との記載で、B耳鼻科からの紹介状コピーが添付されていました。そして、B耳鼻科の紹介状には「7年前に左突発性難聴で…」との記載がありました。

「平成X年」であれば保険料納付要件は満たします。しかし「平成X年”頃”」や「7年前」では少々心もとなく、しかも、平成X年7月まで在職していたので、これでは、初診日が退職前の厚生年金保険の加入中か、または平成X年8月以降の国民年金第1号被保険者の期間中か、はっきりしません。

どう攻略しようか… と思っていたところ、ご実家のお母さまより、紹介状を書いてもらってそのまま受診しなかったものが残っていたという連絡があったそうで、それをご主人が弊所へ持ってきてくれました。

早速内容を確認すると、それはH病院がI病院に向けて作成した紹介状で、それには「13年前 左突発性難聴。J病院でMRI施行。」との記載がありました。13年前とは平成X年と平成X+7年の間に当たります。

事情を伺うと、聴力とは全く無関係の疾病でH病院を受診していた時に聴力の話になり、I病院を受診してみたらどうかと提案されて紹介状を書いてもらったものの、結局受診しなかったそうです。そして、すっかり忘れていたけれど、そういえば以前にJ病院にも行ったことがあったそうです。

早速、J病院に確認したところ、カルテが残っていました。最初は「1回しか受診していないので、詳細がよく分からないから書けない。」と作成に難色を示されてしまいましたが、事情を説明し、ようやく受診状況等証明書を作成していただくことが出来ました。それには「平成X+2年 A耳鼻科より精査目的に当院受診。頭部MRI施行。異常は認めなかった。以降、当院受診しておらず詳細不明。」とあり、A耳鼻科からの紹介状コピーが添付されていました。

これにより病歴が追加され、

【平成X年】A耳鼻科→B耳鼻科→中断→【平成X+2年】A耳鼻科→J病院→中断→【平成X+7年】B耳鼻科→C病院→E病院→F耳鼻科→G病院

であることが分かりました。

そして、このA耳鼻科の紹介状には「X年6月 左難聴出現。その1か月後初診。左60dBの感音性難聴~~~【読めず】~~~。本日再診。70dBと進行しており…」との記載がありました。(一部分は先生の字が達筆すぎて読めませんでした。)

平成X年7月31日に会社を退職しています。これなら何とか厚生年金保険に加入中の「平成X年7月 初診」と主張できそうです。

なお、A耳鼻科の紹介状の読めない部分がどうしても気になり、思い切ってA耳鼻科に聞きに行ってみました。受付の方や看護師さんなど3人が「確かにうちの先生の字ですけど… う~ん。」と悩み、ついに「左60dBの感音性難聴 認めましたが、妊娠8か月で、 経過みることとしました。本日再診。」との判読に成功! 出産日から逆算すると妊娠8か月は平成X年7月で、ここが初診だったという内容にも符合します。

念のためA耳鼻科の紹介状コピーには「翻訳」を添付し、その他の医療機関の受診時期も整理して、病歴・就労状況等申立書を作成し、年金請求を行いました。

結果

平成X年7月を初診日として、障害厚生年金1級(事後重症)が認められました。

コメント

初診日がかなり昔の場合、初診日の証明に苦労することがあります。

このケースでは、初診や次の医療機関にはカルテがなかったものの、それらの医療機関が作成した紹介状が他の病院に残っていたことから初診日の証明につながりました。

いつもこのようにうまく行くとは限りませんが、少ない手がかりから順を追っていくと思わぬ幸運に恵まれることもあります。

諦める前に、まずは障害年金の手続きを専門にしている社労士にご相談いただければと思います。

また、先生の字が達筆すぎて診断書などの字がスムーズに読めないことがあります。それが重要な記載箇所の場合には、診査をする認定医にちゃんと読んでいただくため「翻訳」を添付するのも有効です。

※ 事例の内容は、趣旨が変わらない程度にアレンジしています。