こんにちは。障害年金の手続きを支援している社会保険労務士の小川早苗です。このサイトでは障害年金に関する様々な情報をお伝えしています。
今回は、障害年金における等級判定のしくみについて解説します。
障害年金には等級があり、障害基礎年金には1級~2級、障害厚生年金には1級~3級と障害手当金という複数の等級があります。等級によって障害年金の額が異なりますし、そもそも等級に該当しなければ障害年金を受給することができません。
では、障害年金における等級判定(障害の程度の認定)はどのように行われるのでしょうか。
障害年金は「障害等級に該当する程度」のときに支給される
障害年金の基本的な考え方は、「国民年金法」と「厚生年金保険法」の中で次のように定められています。
障害基礎年金は、疾病にかかり、又は負傷し、かつ、その疾病又は負傷及びこれらに起因する疾病について初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日において次の各号のいずれかに該当した者が、当該初診日から起算して一年六月を経過した日において、その傷病により次項に規定する障害等級に該当する程度の障害の状態にあるときに、その者に支給する。(国民年金法第30条)
障害厚生年金は、疾病にかかり、又は負傷し、その疾病又は負傷及びこれらに起因する疾病につき初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日において被保険者であつた者が、当該初診日から起算して一年六月を経過した日において、その傷病により次項に規定する障害等級に該当する程度の障害の状態にある場合に、その障害の程度に応じて、その者に支給する。(厚生年金法第47条)
すなわち、障害年金は「障害等級に該当する程度の障害の状態」にあるときに支給されます。
障害等級に該当する程度とは
では、障害等級に該当する程度とは、具体的にはどのような状態をいうのでしょうか。
障害等級は、障害の程度に応じて重度のものから一級及び二級(厚生年金保険では一級、二級及び三級)とし、各級の障害の状態は、政令で定める。(国民年金法第30条・厚生年金法第47条)
すなわち、各等級の障害の状態は政令で定めることになっています。
その政令が「国民年金法施行令」と「厚生年金保険法施行令」です。
具体的には、上の2つの施行令の中に別表という形で記載されています。それが、「国民年金法施行令 別表」「厚生年金保険法施行令 別表第1」「厚生年金保険法施行令 別表第2」です。
国民年金法施行令 別表には1級と2級、厚生年金保険法施行令 別表第1には3級、厚生年金保険法施行令 別表第2には障害手当金のことが掲載されています。
1級(国民年金法施行令 別表より)
障害の程度 | 障害の状態 | |
1級 | 1号 | ・両眼の視力がそれぞれ0.03以下のもの ・一眼の視力が0.04、他眼の視力が手動弁以下のもの ・ゴールドマン型視野計による測定の結果、両眼のⅠ/4視標による周辺視野角度の和がそれぞれ80度以下かつⅠ/2視標による両眼中心視野角度が28度以下のもの ・自動視野計による測定の結果、両眼開放視認点数が70点以下かつ両眼中心視野視認点数が20点以下のもの |
2号 | 両耳の聴力レベルが100デシベル以上のもの | |
3号 | 両上肢の機能に著しい障害を有するもの | |
4号 | 両上肢のすべての指を欠くもの | |
5号 | 両上肢のすべての指の機能に著しい障害を有するもの | |
6号 | 両下肢の機能に著しい障害を有するもの | |
7号 | 両下肢を足関節以上で欠くもの | |
8号 | 体幹の機能に座っていることができない程度又は立ち上がることができない程度の障害を有するもの | |
9号 | 前各号に掲げるもののほか、身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする症状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの | |
10号 | 精神の障害であって、前各号と同程度以上と認められる程度のもの | |
11号 | 身体の機能の障害若しくは病状又は精神の障害が重複する場合であって、その状態が前各号と同程度以上と認められる程度のもの |
2級(国民年金法施行令 別表より)
障害の程度 | 障害の状態 | |
2級 | 1号 | ・両眼の視力(矯正視力)がそれぞれ0.07以下のもの ・一眼の視力(矯正視力)が0.08、他眼の視力が手動弁以下のもの ・ゴールドマン型視野計による測定の結果、両眼のⅠ/4視標による周辺視野角度の和がそれぞれ80度以下かつⅠ/2視標による両眼中心視野角度が56度以下のもの ・自動視野計による測定の結果、両眼開放視認点数が70点以下かつ両眼中心視野視認点数が40点以下のもの |
2号 | 両耳の聴力レベルが90デシベル以上のもの | |
3号 | 平衡機能に著しい障害を有するもの | |
4号 | そしゃくの機能を欠くもの | |
5号 | 音声又は言語機能に著しい障害を有するもの | |
6号 | 両上肢のおや指又はひとさし指又は中指を欠くもの | |
7号 | 両上肢のおや指又はひとさし指又は中指の機能に著しい障害を有するもの | |
8号 | 一上肢の機能に著しい障害を有するもの | |
9号 | 一上肢のすべての指を欠くもの | |
10号 | 一上肢のすべての指の機能に著しい障害を有するもの | |
11号 | 両下肢のすべての指を欠くもの | |
12号 | 一下肢の機能に著しい障害を有するもの | |
13号 | 一下肢を足関節以上で欠くもの | |
14号 | 体幹の機能に歩くことができない程度の障害を有するもの | |
15号 | 前各号に掲げるもののほか、身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの | |
16号 | 精神の障害であって、前各号と同程度以上と認められる程度のもの | |
17号 | 身体の機能の障害若しくは病状又は精神の障害が重複する場合であって、その状態が前各号と同程度以上と認められる程度のもの |
3級(厚生年金保険法施行令 別表第1より)
障害の程度 | 障害の状態 | |
3級 | 1号 | ・両眼の視力(矯正視力)がそれぞれ0.1以下に減じたもの ・ゴールドマン型視野計による測定の結果、両眼のⅠ/4視標による周辺視野角度の和がそれぞれ80度以下に減じたもの ・自動視野計による測定の結果、両眼開放視認点数が70点以下に減じたもの |
2号 | 両耳の聴力が40センチメートル以上では通常の話声を解することができない程度に減じたもの | |
3号 | そしゃく又は言語の機能に相当程度の障害を残すもの | |
4号 | 脊柱の機能に著しい障害を残すもの | |
5号 | 一上肢の3大関節のうち、2関節の用を廃したもの | |
6号 | 一下肢の3大関節のうち、2関節の用を廃したもの | |
7号 | 長管状骨に偽関節を残し、運動機能に著しい障害を残すもの | |
8号 | 一上肢のおや指及びひとさし指を失ったもの又はおや指若しくはひとさし指を併せ一上肢の3指以上を失ったもの | |
9号 | おや指及びひとさし指を併せ一上肢の4指の用を廃したもの | |
10号 | 一下肢をリスフラン関節以上で失ったもの | |
11号 | 両下肢の10趾の用を廃したもの | |
12号 | 前各号に掲げるもののほか、身体の機能に、労働が著しい制限を受けるか、又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの | |
13号 | 精神又は神経系統に、労働が著しい制限を受けるか、又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの | |
14号 | 傷病が治らないで、身体の機能又は精神若しくは神経系統に、労働が制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を有するものであって厚生労働大臣が定めるもの |
障害手当金(厚生年金保険法施行令 別表第2より)
障害の程度 | 障害の状態 | |
障害手当金 | 1号 | 両眼の視力(矯正視力)がそれぞれ0.6以下に減じたもの |
2号 | 一眼の視力(矯正視力)が0.1以下に減じたもの | |
3号 | 両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの | |
4号 | ・両眼による視野が2分の1以上欠損した方ゴールドマン型視野計による測定の結果、Ⅰ/2視標による両眼中心視野角度が56度以下に減じたもの ・自動視野計による測定の結果、両眼開放視認点数が100点以下に減じたもの若しくは両眼中心視野視認点数が40点以下に減じたもの | |
5号 | 両眼の調節機能及び輻輳機能に著しい障害を残すもの | |
6号 | 一耳の聴力が、耳殻に接しなければ大声による話を解することができない程度に減じたもの | |
7号 | そしゃく又は言語の機能に障害を残すもの | |
8号 | 鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの | |
9号 | 脊柱の機能に障害を残すもの | |
10号 | 一上肢の三大関節のうち、一関節に著しい機能障害を残すもの | |
11号 | 一下肢の三大関節のうち、一関節に著しい機能障害を残すもの | |
12号 | 一下肢を3センチメートル以上短縮したもの | |
13号 | 長管状骨に著しい転移変形を残すもの | |
14号 | 一上肢の二指以上を失ったもの | |
15号 | 一上肢のひとさし指を失ったもの | |
16号 | 一上肢の三指以上の用を廃したもの | |
17号 | ひとさし指を併せ一上肢の二指の用を廃したもの | |
18号 | 一上肢のおや指の用を廃したもの | |
19号 | 一下肢の第一趾、又は他の四趾以上を失ったもの | |
20号 | 一下肢の五趾の用を廃したもの | |
21号 | 前号に掲げるもののほか、身体の機能に、労働者が制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの | |
22号 | 精神又は神経系統に、労働が制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの |
各施行令別表のPDFファイルは、日本年金機構のWEBページからダウンロードすることができます。
▼国年令別表・厚年令別表第1・厚年令別表第2|日本年金機構
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/shougainenkin/ninteikijun/20140604.files/3-2-2.pdf
実務的には障害認定基準を参考にする
「国民年金法施行令 別表」「厚生年金保険法施行令 別表第1・第2」を見てみると、一部の障害に関しては具体的な数値が掲載されています。
しかし、多くの障害については、例えば「労働に著しい制限を受ける程度」などの漠然とした表現になっています。これだけでは、どのような状態がそれぞれの障害等級に該当するのかはっきりしません。
そこで、より具体的な基準として、厚生労働省から「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」という通知(事務連絡)が出されています。
実務的には、「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」を参考にして、この基準に該当する状態のときに障害年金が支給されることになります。
ただし、「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」はあくまでも事務連絡のレベルであり、本来は国民年金法施行令別表、厚生年金保険法施行令別表第1・第2によって認定されるべきであることを忘れないようにしましょう。
なお、精神の障害については、この障害認定基準のほかに「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」も用意されています。詳細は以下の記事で解説しています。
精神の障害年金で外せない等級判定ガイドラインとは障害等級は誰がどのように決定するのか
では、障害等級(障害の程度)については、誰が、どのようにして決定しているのでしょうか。
誰が障害等級を決定するのか
まず、「誰が障害等級を決定するのか」についてですが、認定医が医学的な立場から認定し、その認定内容をもとに保険者(実務的には日本年金機構)が最終的に決定しています。
認定医が基準を見落とすことなく適正に認定できるように、日本年金機構の職員が「事前認定票」を用意するしくみも導入されています。
認定医が誰なのかは公表されていませんが、日本年金機構の業務実績報告書によれば全国で260名程度の認定医がいらっしゃるようです(令和1年度)。
日本年金機構の業務実績報告書には、以下のような記述があります。
障害認定の判断の公正性を一層確保するため、障害認定医の医学的な総合判断を特に要する事例について、複数の認定医が認定に関与する仕組みを令和1年7月末から導入しました。また、複数の認定医で意見が異なる事案について、適正な障害認定を確保するため、令和元年 12 月に障害認定審査委員会を設置し、令和2年1月から毎月開催しました。
令和元年度業務実績報告書(日本年金機構)https://www.nenkin.go.jp/info/johokokai/disclosure/gyoumu/gyomujisseki/kako.files/R01.pdf
障害認定業務の標準化や職員の専門性・スキルの一層の向上を図るため、障害年金センターの業務フロー等の見直しについて令和3年11月から試行的に実施し、課題を整理した上で令和4年4月から以下の取組を実施しました。
・職責に応じた役割の明確化及び決裁権限の整理
・認定に必要な診断書等の障害状態に関する事項について職員が事前確認票を作成する仕組みの導入
・複数の認定医による認定や不利益処分の理由付記など認定結果に関するチェック機能の強化
令和3年度業務実績報告書(日本年金機構)
https://www.nenkin.go.jp/info/johokokai/disclosure/gyoumu/gyomujisseki/kako.files/R03.pdf
認定事例の共有や審査基準に対する意識の統一を図るため、令和6年3月に障害認定医会議を開催しました。令和5年度は、精神障害を担当する認定医を対象として開催し、参加した46名の認定医と意見交換を行い、認定医相互間の情報共有を図りました。
令和5年度業務実績報告書(日本年金機構)https://www.nenkin.go.jp/info/johokokai/disclosure/gyoumu/gyomujisseki/index.files/R05.pdf
適正な認定を行うべく、様々な工夫をしていることが読み取れます。
なお、裏を返せば、通常のケースは1人の認定医が認定を行っているということになります。また、複数の認定医で認定を行うと異なる等級判定になる場合がありうることを示しています。
以前は、障害基礎年金に関しては各地域の認定医が認定していたために地域による格差が問題視されたこともありました。しかし現在では、すべて東京にある障害年金センターで取りまとめることになったため、地域格差は解消されています。
どのように障害等級を認定するのか
次に、「どのように障害等級を認定するのか」についてです。
実務的には「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」を参考にして認定することは上で述べたとおりです。では、「障害認定基準」と「何」を照らし合わせて認定するのでしょうか。
障害年金を請求する際には「診断書」と「病歴・就労状況等申立書」を提出します。
「診断書」や「病歴・就労状況等申立書」の他にも任意の資料の提出が認められています。一方、日本年金機構からも他の書類の提出を求められることもあります。
基本的には、「診断書」や「病歴・就労状況等申立書」などの提出資料の内容から総合的に評価して認定するとされています。
認定の経過は「事前確認票」や「認定調書」という書類に書き記されます。
事前確認票や認定調書を見ると、「診断書」や「病歴・就労状況等申立書」などの資料の内容をチェックし、どの部分の記載内容に着目して、「障害認定基準」のどの基準に当てはめて、どのような理由で認定したのかが(ある程度は)分かります。
注目して頂きたいのが、診断書や病歴・就労状況等申立書などの「提出資料の内容」によって認定するという点です。
すなわち、障害年金における障害の程度の認定は書類審査のみで行われます。認定医の診察や保険者との面接などは一切ありません。
書類審査であることを念頭に置き、適正に認定されるように必要な情報は書類の形で提出することがいかに大切かが分かります。