こんにちは。障害年金の受給を応援している社会保険労務士の小川早苗です。このサイトでは障害年金の受給に関する様々な情報をお伝えしています。
今回は、20歳前傷病による障害基礎年金の所得制限に関するお話です。
20歳前傷病による障害基礎年金は、お仕事などによって収入を得ると、収入額によっては障害基礎年金が減額されたり支給停止になったりすることがあります。ここでは、どのくらいの所得があると制限を受けるのか、具体例と共に解説します。
所得制限があるのは20歳前傷病による障害基礎年金だけ
障害年金の受給者本人に収入がある場合、収入が多すぎると障害年金の支給が止まってしまうのではないか・・・と心配になることがあります。
収入額によって障害年金の支給が停止される可能性があるのは「20歳前傷病による障害基礎年金」の場合だけです。
障害厚生年金や20歳になってから初診日がある障害基礎年金は、受給者本人の収入の多さだけを理由にして支給が停止することはありません。
なお、正確には、20歳前傷病による障害基礎年金を受給している方ご本人の「所得」によって判断します。判断基準は「収入」ではなく「所得」であることに注意しましょう。
20歳前傷病による障害基礎年金にだけ所得制限がある理由は、下の記事で解説しています。

所得制限の額とは
では、支給が停止となる所得の額とはいくらでしょうか。
20歳前傷病による障害基礎年金の所得制限の方法は、前年の受給者本人の所得について、一定の額を超えたら年金額の1/2相当額が支給停止になり、さらに一定の額を超えたら全額が支給停止になるという2段階制になっています。
すなわち、第1の基準を超えたら半分だけの支給になり、第2の基準を越えたら支給がなくなります。
具体的な所得制限の額は以下のとおりです。
単身世帯の場合の所得制限
*年金額は2022年度(令和4年度)の額
本人の所得額 | 制限内容 | 支給される障害基礎年金の額 |
---|---|---|
3,704,000円以下 | 制限なし(全額支給) | 1級:972,250円 2級:777,800円 |
3,704,000円超 4,721,000円以下 | 障害基礎年金の 2分の1が支給停止 | 1級:486,125円 2級:388,900円 |
4,721,000円超 | 障害基礎年金は 全額が支給停止 | 1級:0円 2級:0円 |
2人以上世帯の場合の所得制限
*年金額は2022年度(令和4年度)の額
扶養親族の人数 | 本人の所得額 | 制限内容 | 支給される障害基礎年金の額 (加算額を含まず) |
---|---|---|---|
1人 | 4,084,000円以下 | 制限なし(全額支給) | 1級:972,250円 2級:777,800円 |
4,084,000円超 5,101,000円 | 障害基礎年金の 2分の1が支給停止 | 1級:486,125円 2級:388,900円 |
|
5,101,000円超 | 障害基礎年金は 全額が支給停止 | 1級:0円 2級:0円 |
|
2人 | 4,464,000円以下 | 制限なし(全額支給) | 1級:972,250円 2級:777,800円 |
4,464,000円超 5,481,000円以下 | 障害基礎年金の 2分の1が支給停止 | 1級:486,125円 2級:388,900円 |
|
5,481,000円超 | 障害基礎年金は 全額が支給停止 | 1級:0円 2級:0円 |
|
3人 | 4,844,000円以下 | 制限なし(全額支給) | 1級:972,250円 2級:777,800円 |
4,844,000円超 5,861,000円以下 | 障害基礎年金の 2分の1が支給停止 | 1級:486,125円 2級:388,900円 |
|
5,861,000円超 | 障害基礎年金は 全額が支給停止 | 1級:0円 2級:0円 |
※ 上表の本人の収入額は、扶養親族が老人控除対象配偶者・老人扶養親族・特定扶養親族ではない場合の額です。
扶養親族が老人控除対象配偶者・老人扶養親族の場合は、本人の所得額についての基準がさらに100,000円プラス、19歳以上23歳未満の特定扶養親族の場合は、本人の所得額についての基準がさらに250,000円プラスされます。
なお、子の加算額については支給停止の対象外です。すなわち、障害基礎年金の本体の額が支給停止になっても、子の加算額は支給されます。
どの時期の所得によって判定するのか

所得制限が行われるかどうかは直近年の所得によって判定されます。
具体的には、1月分~9月分として支給される障害基礎年金は前々年の所得、10月分~12月分として支給される障害基礎年金は前年の所得によって判定されます。
言い方を変えると、所得制限の期間は10月分から翌年9月分までの12か月間を単位として行われます。10月分の支給から所得制限を行うかどうかが判定され、その判定が1年間継続します。
なお、いったん支給制限になっても、次の期間(10月分~)については新たに判定を行います。そこで所得制限に該当していなければ制限が解除となって支給が再開されます。
※ 令和2年度までは8月分から翌年7月分までの12か月間でしたが、令和3年度から上記のように改正されました。改正の境目である令和2年度に関しては、所得制限の期間は令和2年8月分から令和3年9月分まで(14カ月分)でした。
所得とは地方税法の所得の計算による

ここまで見てきた所得制限の額は「収入」ではなく「所得」であることに注意しましょう。
収入とは、いわゆる額面の額のことです。例えば、額面の給与が月20万円で、そこから社会保険料や所得税・住民税などが差し引かれて手取り額としては月16万円の給与をもらっている人の場合、年収(1年間の収入)は240万円となります。
一方、所得とは、収入額そのものではなく「収入から各種の所得控除額を差し引いた後の額」を指します。例えば、年収240万円の場合、給与所得控除80万円を差し引いた160万円が給与所得となります。(※ 給与所得控除の額は給与額に比例した額で、一律の額ではありません。)
仕事をして給与をもらっている人は年末に会社から源泉徴収票をもらうと思いますが、源泉徴収票の「支払金額」ではなく「給与所得控除後の金額」の欄が給与所得にあたります。
家賃収入など給与以外の収入がある人は、それぞれの収入から必要経費に相当する控除額などを差し引いて算出した各所得の合計額で判断します。
なお、所得の計算は地方税法の所得の計算によります。
もう少し具体的に説明すると、以下のようになります。
A(下記の所得の合計額)からB(下記の各種控除額)を控除した額
A:地方税法に規定する総所得金額(利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、譲渡所得、雑所得の合計額)、退職所得金額、山林所得金額その他(ここでは省略します)の合計額
B:雑損控除額、医療費控除額、社会保険料控除額、小規模企業共済等掛金控除額、配偶者特別控除額、障害者控除額、寡婦控除額、ひとり親控除額、勤労学生控除額に相当する額
控除する額(上記のB)には基礎控除や寄附金控除がないなど、計算後の所得金額と確定申告における課税所得とは一致しません。また、所得税法第22条第2項の総所得金額に含まれないものは除外するなど、この他にも20歳前傷病の基礎年金の支給を停止する場合の所得の額計算方法には細かい規定があります。実際に所得の額を計算する際には注意が必要です。
さらに詳しく知りたい方は以下をご参照ください。
- 国民年金法 第36条の3
- 国民年金法施行令 第6条の2
- 地方税法 第32条・第34条第1項
- 所得税法 第22条
仕事をしながら障害年金を受給する場合の具体例
令和4年度の額を例にして、具体例を見てみましょう。
Aさん(50歳・会社員)
先天性の腎疾患により20歳前から受診を継続している。
大学卒業後、企業に就職して厚生年金保険に加入し、デスクワークを担当している。
昨年の給与額は月50万円、賞与は年2回で合計160万円だった。配偶者との共働きで、中学生の子どもが1人いる。
現在は2級の障害基礎年金を受給している。
● 仕事による収入=500,000 × 12 + 1,600,000 = 7,600,000円
(給与所得控除・社会保険料控除・障害者控除を控除した後の所得額 = 4,330,000円)
● 障害基礎年金2級=777,800円-(777,800円 × 1/2) + 223,800円(子の加算額)=612,700円
Bさん(35歳・パートタイム)
10代の頃の交通事故により足が不自由で、20歳から2級の障害基礎年金を受給している。
昨年の給与額は月6万円、賞与の支給はなかった。
配偶者との二人暮らし。
● 仕事による収入=60,000 × 12 = 720,000円
(給与所得控除後の給与所得=170,000円)
● 障害基礎年金2級=777,800円(制限なし)