概要
傷病名 | 統合失調症 |
年代 | 50代 |
経緯 | 20代前半に精神科の受診歴あり。その後、間をあけて、30代半ばに自殺企図して精神科を受診。 被害妄想により、近所で度々トラブルを起こしていた。 50代になり、近隣からの通報によって警察経由で精神科に措置入院となった。 |
決定年金 | 障害厚生年金2級 |
年金額 | 122万円 |
ご依頼までの経緯
高校中退後、いくつかの職を転々としていましたが、27歳の時を最後に仕事に行かなくなり、実家でブラブラした生活をしていました。
徐々に被害妄想が増悪し、33歳の時に自室で自殺未遂。発見した父親に連れられて精神科を受診したところ、統合失調症と診断されました。
しばらくは服薬と通院を続けていましたが、お目付け役の父親が亡くなった頃から自由に振舞うようになり、精神科への通院も中断。近所の人とすれ違った際に「挨拶がなかった。俺を無視するのか!」「今、俺を見て笑っただろう!」と言いがかりをつけては大暴れするようになっていきました。
ある時、とうとう近隣からの通報により警察に連れていかれ、そのまま精神科に措置入院となってしまいました。
面倒を見ていた姉が病院の勧めで障害年金の手続きをすることになりました。ところが、市役所で相談したところ、33歳の初診では納付要件を満たさないので障害年金は支給できないと言われ、もうびっくり。
しかし、市役所からは33歳より前にも受診歴があるようなことを言われ、でもそれを証明しないことには障害年金は支給できないとのことで、何をどうしたらよいのか意味が分からず、当事務所にご相談をくださいました。
当事務所での対応
まずは状況を把握するため、市役所や年金事務所で記録を確認してみました。
すると、今から4年ほど前に本人が自ら市役所に障害年金の相談に行っており、その時に21歳の頃の受診歴を市役所に伝えていたことが分かりました。〇年〇月〇日 〇〇医院 と詳しく伝えていることから、その時には何らかの資料があったと推測されます。
ご本人に確認したところ、実は20代前半に数年間、精神科に通院していたそうです。その頃の勤務先で色々とトラブルがあって眠れなくなり、睡眠薬をもらいに行ったのがきっかけだったそうです。
そしてなんと、今から4年前の市役所への相談の際は「初診日が記載された診察券」を持っていたそうです。ところが、市役所で「こうやってご本人が相談に来られる程度の状態では障害年金は支給されないですよ。それよりも働いた方がいいですね。」とあしらわれてしまい、腹を立てて診察券は捨ててしまったのだそうです。あ~残念…
市役所に伝えた日付が初診日であれば、納付要件を満たすことができます。今から30年前です。医院自体は存在していたので望みをかけてカルテの有無を確認したのですが、残念ながら紙カルテ時代のものは処分してしまって残っていないという返事でした。
次に受診した、33歳のときの病院で受診状況等証明書を取得したところ、「22歳の頃、〇〇医院を受診」の記載がありました。う~ん、〇〇医院というのは合っていますが22歳の頃というのがあいまい過ぎるし、本当は21歳です。カルテ開示して確認してみましたが、やはり「22歳の頃、〇〇医院行ったことある」という一文しか見当たりません。
通院していたことを知っている方もいないとのことで、第三者証明も望めません。
市役所に残されている記録を開示請求することも考えました。しかし、やたらと時間がかかりそうな雰囲気です。
そんな時、お姉さんから、〇〇医院から処方された薬が袋に入ったままの状態で見つかったという連絡が入りました。急いで現物を見に行くと、レキソタン(抗不安薬)が未使用のまま山盛り残っていました。ただし、薬袋に書かれた名前は苗字だけでフルネームではなく、処方された日付は初診の21歳の頃ではなく29歳の時です。(断続的に、割と長い間受診していたようです。)
仮にそこを初診日とすると納付要件は満たしますが、国民年金(第1号)の期間中です。一方、21歳の頃は厚生年金保険です。
どれも決め手に欠ける感じですが、事後重症請求でもあるので、思い切って裁定請求を出してみることにしました。初診日の証明としては以下のものを添付しました。
- 受診状況等証明書が添付できない申立書(規定のもの)
- 2番目の病院からの受診状況等証明書(前医として「22歳の頃、〇〇医院を受診」の記載)
- 開示したカルテコピー(「22歳の頃、〇〇医院行ったことある」の部分)
- 〇〇医院から処方された薬と薬袋を写真に撮ってA4紙に印刷したもの(ただし処方日は29歳)
- 21歳の時を初診と考える申立書(21~22歳の勤務先で色々あったこと、市役所で相談したこと)
こちらの主張は、21歳を初診とした障害厚生年金です。もしかしたら29歳を初診とするよう訂正の指示(返戻)が来て、何とか障害基礎年金は認められるかもしれません。または初診日不明で却下か…。こちらの主張が認められなかったら、そのときは市役所の記録の開示請求を検討しようと考えました。
支給決定か、返戻か、却下か、または不支給か…
結果
厚生年金保険の期間中を初診日と認め、障害厚生年金2級(事後重症)が決定しました。
コメント
障害年金の初診日を明らかにすることができる書類を添えることができない場合の取り扱いについて(年管管発0928第6号 平成27年9月28日)の中に、「請求の5年以上前に医療機関が作成した資料(診療録等)に請求者申立ての初診日が記載されている場合には、初診日を認めることができることとする。」という取り扱いがあります。
これに則り、転院先のカルテに記載されていた「22歳の頃、〇〇医院行ったことある」の文言を活用しました。しかし、「22歳の頃」という非常にあいまいな表現でどこまで認められるかが難しい案件でした。
これを初診日として認めてもらえたのは、お姉さんが探し出してくれた、〇〇医院から処方された抗不安薬の薬袋だと思います。
はっきりと「〇年〇月〇日 〇〇医院」までは証明できなくても、それぞれの資料を基に総合的に判断すれば「21~22歳の頃の〇〇医院が初診というのはもっともらしい」と認めてもらえたのだと思います。
諦めずに資料を集めてみることの重要性が認識できた事例でした。
※ 事例の内容は、趣旨が変わらない程度にアレンジしています。
参考資料
「障害年金の初診日を明らかにすることができる書類を添えることができない場合の取扱いについて」の一部改正について|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc3901&dataType=1&pageNo=1