こんにちは。障害年金の手続きを支援している社会保険労務士の小川早苗です。このサイトでは障害年金に関する様々な情報をお伝えしています。
今回のテーマは、障害年金の請求方法の種類です。
障害年金を調べていると、遡及請求、事後重症による請求、最大5年分もらえる… といった用語を目にする方も多いと思います。
そこで今回は、よくある勘違いも交えながら、障害年金の請求方法の種類について解説します。
障害年金の請求方法は主に2種類
障害年金の請求方法は、大きく分けて2つの種類があります。
障害認定日(※)に障害等級に該当している場合に、障害認定日からの障害年金を請求する方法です。これを「障害認定日による請求」といいます。
※ 障害認定日=原則として初診日から1年6か月を経過した日を指します。
障害認定日には障害等級に該当していなかったが、その後症状が悪化して障害等級に該当した場合に、請求日からの障害年金を請求する方法です。これを「事後重症による請求」といいます。
2つの請求方法の主な違いをまとめると、下のようになります。
障害認定日による請求 | 事後重症による請求 | |
---|---|---|
主な要件 | 障害認定日に障害等級に該当していること | 請求時に障害等級に該当していること |
請求できる 時期 | 障害認定日以後ならいつでも可 | 障害認定日以降~65歳の誕生日の前々日まで可 (注)老齢年金の繰上げ受給後は繰上げ請求前まで可 |
支給開始 | 障害認定日の翌月分から (注)5年以上前の部分は時効消滅 | 請求日の翌月分から |
必要な 診断書 | 障害認定日の診断書 (注)障害認定日から1年を超えて請求する場合は 請求時点の診断書も必要(合計2枚) | 請求時点の診断書 |
これ以外にも、複数の傷病について併せて認定を受ける請求方法がありますが、今回は、傷病が1つだけの場合について説明します。
障害認定日による請求
障害認定日による請求とは、障害認定日の時点で障害等級に該当している場合に、障害認定日からの障害年金を請求する方法です。
障害認定日についての詳しい内容は、下の記事で解説しています。原則は「初診日から1年6か月を経過した日」をいいます。
障害年金における障害認定日とは|原則と特例を具体例で解説障害認定日による請求の主な要件は、障害認定日の時点で障害等級に該当していることです。障害認定日の時点で障害等級に該当していることが分かれば、障害認定日をかなり過ぎてからでも請求できるのが特徴です。
障害認定日による請求のうち、障害認定日から1年以内に請求することを「本来請求」、障害認定日から1年を過ぎてから請求することを「遡及請求」といいます。
障害認定日による請求(本来請求)
「障害認定日による請求」のうちの「本来請求」とは、障害認定日の時点で障害等級に該当している場合に、障害認定日から1年以内に、障害認定日からの障害年金を請求する方法です。
※ 図中の「受証」とは「受診状況等証明書」の略で、初診日を証明する書類を指します。これ以降に掲載されている図でも同様です。
障害認定日の障害状態が分かるものとして、通常は障害認定日以後3か月以内の状態を記入した診断書(1枚)が必要です。
「3か月以内」は目安です。正しくは「障害認定日の障害状態が分かるもの」です。
障害認定日から3か月以内の診断書であれば、障害認定日の障害状態を表していると考えてよいだろう…ということで、3か月以内が目安とされていますが、「3か月以内」でなければならない根拠はありません。
いつの時点の障害状態を記入したものかは非常に重要です。その日付のことを「現症日」といい、診断書には「平成〇年〇月〇日現症」という表現で記入されます。
【例】障害認定日が「令和2年4月15日」の場合、障害認定日による請求で必要な診断書の現症日は「令和2年4月15日~同年7月14日」となります。
医師の診療を受けていない日の障害状態は医師にも分からないことから、一般的には「現症日=受診した日」になります。言い換えれば、受診していない日を現症日とした診断書を依頼しても「作成できません。」と断られることがほとんどです。
障害認定日に障害等級に該当する状態であったことが認められると、障害認定日に受給権が発生し、障害認定日の翌月分から年金が支給されます。
【例】障害認定日が「令和2年4月15日」の場合、令和2年5月分からの障害年金が支給されます。
障害認定日による請求(遡及請求)
「障害認定日による請求」のうちの「遡及請求」とは、障害認定日の時点で障害等級に該当している場合に、障害認定日から1年を超えてから、障害認定日からの障害年金を請求する方法です。
これは、1年以上の間をあける必要があったわけではなく、何らかの事情ですぐに請求できなかったケースを指します。(障害認定日に障害等級に該当していれば、本来はすぐに請求できます。)
通常は、障害認定日以後3ヶ月以内の現症日の診断書と、請求日以前3か月以内の現症日の診断書、合計2枚の診断書が必要です。
【例】障害認定日が「令和2年4月15日」、請求日が「令和5年4月15日」の場合、障害認定日による請求で必要な診断書の現症日は「令和2年4月15日~同年7月14日」と「令和5年1月16日~同年4月15日」の2枚になります。
障害認定日に障害等級に該当する状態であったことが認められると、障害認定日にさかのぼって受給権が発生し、障害認定日の翌月分から直近までの年金が初回にまとめて支給されます。
例えば、3年前の障害認定日にさかのぼって受給権が発生した場合は、過去3年分の年金が初回にまとめて支給されます。1年分の年金が仮に100万円だった場合には、300万円がまとめて支給されることになります。
ただし、さかのぼって支給されるのは最大で5年分までです。
各支払期に年金の支給を受ける権利のことを「支分権」といいますが、支分権には5年の時効があります。5年以上前の部分は、本来であれば支給を受けられたのですが、時効によって支分権が消滅してしまったため支給されません。
障害年金が時効消滅でもらえなくなる?時効5年の計算方法を詳しく解説障害認定日による請求(遡及請求)のよくある勘違い
支分権には5年の時効があり、さかのぼって支給されるのは最大5年間までです。
このことから、「さかのぼって支給されるのが5年前からならば、診断書は、請求から5年前のものがあれば大丈夫?」と勘違いされることがあります。
これは誤りです。
受給権は、あくまでも障害認定日に発生するものです。したがって、障害認定日に受給する権利があったのかどうかを認定する必要があるため、請求から5年前の診断書ではなく、障害認定日の診断書が必要です。
障害認定日による請求は、障害認定日からかなり遅れても請求することができます。しかし、障害認定日の頃に障害等級に該当する状態にあったと認定される必要があります。
仮に障害認定日の頃に障害等級に該当する状態だったとしても、それを証明するもの(多くの場合は診断書)がないと、年金を請求しても障害認定日の頃の障害状態が障害等級に該当していたかどうかが分からず、結果として障害認定日にさかのぼっての年金支給を受けることができないのです。
障害認定日の頃に障害等級に該当する状態だったとしても、障害認定日の頃の障害状態の分かるものが用意できない場合は、やむを得ず、事後重症による請求を行うことになります。
必要なのは、障害認定日の頃の障害状態が分かるものです。実は、これは「診断書」に限定されるものではありません。診断書がなくても、ほかのもので障害認定日の頃の障害状態が分かればよいのです。
ただし、診断書以外のもので障害状態を認定してもらうのはかなり難易度が高いと考えた方がよいでしょう。
事後重症による請求
事後重症による請求
「事後重症による請求」とは、障害認定日には障害等級に該当していなかったが、その後、65歳の誕生日の前々日までに症状が悪化して障害等級に該当した場合に、請求日からの障害年金を請求する方法です。
事後重症による請求には、通常は請求日以前3か月以内の現症日の診断書(1枚)が必要です。
請求日に障害等級に該当する障害状態であったことが認められると、請求日に受給権が発生し、請求した月の翌月分から年金が支給されます。
【例】事後重症による請求の請求日が「令和5年4月15日」の場合、令和5年5月分からの障害年金が支給されます。
障害認定日による請求との違いとして、65歳の誕生日の前々日までに請求する必要があります。(これは、一般的には65歳に達すると老齢年金を受給できるようになるため、老齢年金の方を請求してくださいね…ということに由来します。)
なお、老齢年金は65歳に達する前にも繰上げて支給を受けることもできますが、繰上げ支給を請求すると、年金の世界では65歳に達したものと同じ扱いになります。この場合には、実際には65歳に達していなくても事後重症による請求ができなくなります。
事後重症による請求のよくある勘違い
事後重症による請求での障害年金は、請求によって初めて受給権が発生します。
すなわち、障害年金を請求するかなり前から重症だったとしても、さかのぼって障害年金が支給されるわけではありません。
障害認定日の頃は障害等級に該当する状態ではなかったが、その後悪化して、例えば3年前から障害等級に該当する程度だったとしても、事後重症による請求では、受給権は3年前にさかのぼって発生することはなく、あくまでも請求日に受給権が発生します。
このことから、事後重症による請求は、1か月でも早く請求した方がよいといえます。
20歳前傷病による障害基礎年金の請求の場合
「20歳の誕生日の前日」よりも前に初診日がある場合の障害年金を「20歳前傷病による障害基礎年金」といいます。
20歳前傷病による障害基礎年金は、通常の障害年金と異なる点がいくつかあります。今回は、請求方法についての違いを取り上げます。
通常の障害年金の請求 | 20歳前傷病による障害基礎年金の請求 | |
---|---|---|
請求方法 | ・障害認定日による請求 ・事後重症による請求 | ・障害認定日による請求 ・事後重症による請求 (※)通常の障害年金の請求と同じ |
障害認定日 | 初診日から1年6か月を経過した日(原則) | 「初診日から1年6か月を経過した日(原則)」と 「20歳の誕生日の前日」のいずれか遅い方の日 |
障害認定日による 請求の診断書 | 障害認定日以後3か月以内の現症日のもの | 障害認定日の前後3か月以内の現症日のもの |
通常の障害年金の請求(20歳の誕生日の前日以降に初診日がある場合の請求)では、障害認定日は、初診日から1年6か月を経過した日(原則)です。
一方、20前傷病による障害基礎年金の場合は、「初診日から1年6か月を経過した日(原則)」と「20歳の誕生日の前日」のいずれか遅い方の日に障害状態を認定することになっています。
簡単に言えば、20歳前傷病による障害基礎年金の場合は、「どんなに早くても20歳の誕生日の前日まで待つ必要がある」ということです。
また、20歳前傷病による障害基礎年金で障害認定日による請求を行う場合は、「障害認定日の【前後】3か月以内」の障害状態が分かる診断書で良いことになっています。すなわち、前後を合わせて6か月間と幅が広がります。
その他の請求法については、通常の障害年金の請求と同じです。
例えば、障害認定日から1年を超えて障害認定日による請求をする場合には診断書が2枚必要です。また、事後重症による請求は遡及請求できません。
20歳前傷病による障害基礎年金の特徴については、下の記事でも解説しています。
いくらまで大丈夫?20歳前傷病による障害基礎年金の所得制限を解説