概要
傷病名 | 慢性腎不全 |
年代 | 50代 |
経緯 | 小学生の時に機能的片腎(右腎の萎縮)の指摘受けるが、その後の継続受診なし。 就職後の健康診断でも蛋白尿の指摘あったが受診せず。 40代にて別疾患の術前検査で腎臓機能機能低下を指摘されて治療開始。 約12年後、人工透析開始。 |
決定年金 | 障害厚生年金2級 |
年金額 | 161万円 |
ご依頼までの経緯
小学校の尿検査で蛋白尿を指摘され受診。機能的片腎(右腎の萎縮)であることが分かりましたが、左腎がしっかりと機能していたため、治療や経過観察はしませんでした。
社会人になり、会社の健康診断でも蛋白尿の指摘がありましたが、原因は自分で分かっていたので受診はしませんでした。24歳の頃と38歳の頃、別疾患にて手術を受けますが、手術時に腎機能に関する話は何も出ませんでした。
40歳のとき、また別疾患で手術を受けることとなり、このときの術前検査で腎機能低下を指摘され、ここから腎機能に関する服薬と経過観察がスタートしました。
徐々に足のむくみや倦怠感が現れ、52歳にて人工透析をすることとなりました。
初診日の証明方法に難しさを感じ、弊所にご相談いただきました。
当事務所での対応
24歳での手術はA病院、38歳での手術はB病院、40歳での手術はA病院でした。ご本人は、それらの手術の時に病院からもらった手術説明書などの書類を手元にちゃんと残していました。
それによると、24歳や38歳での書類には腎臓のことが何も書かれておらず、40歳の時の書類で初めて「腎機能の低下あり」「腎機能の改善を待って手術日程を決める」といった文言が登場していました。
そこで、40歳の厚生年金保険の加入期間中を初診日として請求する方針としました。
それには、「小学生の時に受診して以来、腎機能に関する受診は長らくしていなかった。」という社会的治癒があったと主張し、認められることが必要です。
A病院にカルテ保存の確認をしたところ、幸運にもカルテは残っていました。そこで、事情を説明して、腎機能に関する受診状況等証明の作成をお願いしました。
A病院の事務の方は、私の説明に耳を傾け親身に応対してくださいました。院内で検討していただいた結論としては、「腎機能に関する証明書を作成するならば、小児期のことは省略できない。」とのことでした。当然の結論でしょう。
そこで、「24歳での受診時には腎機能に関する診療をしていなかった、ということも省略せずに記載いただきたい。」とお願いしました。
出来上がった受診状況等証明書の「⑤発病から初診までの経過」の欄には「生来、右腎の萎縮を認め、小児期より蛋白尿を認めていた。平成〇〇年(24歳時)、〇〇疾患にて当院初診。平成△△年(40歳時)、△△の術前検査にて腎機能の低下を認めた。」との記載がありました。
病歴・就労状況等申立書には小学生の時のことからすべてを記載し、その上で40歳時を初診とした障害厚生年金の請求を行いました。
結果
40歳時を初診として、障害厚生年金2級に認められました。
コメント
関連がある疾患にて受診歴がある場合、原則は最初の受診が初診日になります。
しかし、医学的には治癒していなくても、その後受診の必要がなくなり、通常通りの生活を送っていた期間が相当程度(大まかには5年以上)続いて社会的には治癒していたとみなせる場合には、再び悪化して受診した日を「(再発後の)初診日」として障害年金の支給を受けられる場合があります。
この考え方を「社会的治癒」といいます。
社会的治癒があったかどうかの明確な基準はなく、事例ごとに個別に判断することになっています。
今回の事例の場合、小学生での受診を初診日とする場合には、初診日は40年以上前のことなので証明自体も難しいですし、受給できたとしても障害基礎年金となるため、金額は年80万円程度となります。
一方で、社会的治癒があったものとして厚生年金保険を初診日として認められた場合には、障害基礎年金だけではなく障害厚生年金の上乗せや配偶者の加給年金もつくため、金額は年160万円程度となり、2倍の差が生じます。
社会的治癒があったかどうかの判断は事例ごとに異なるため、その主張には少々コツが必要です。社会的治癒を主張するケースでは、社会保険労務士と一緒に進めた方が安心ではないかと思います。
※ 事例の内容は、趣旨が変わらない程度にアレンジしています。