こんにちは。障害年金の手続きを支援している社会保険労務士の小川早苗です。このサイトでは障害年金に関する様々な情報をお伝えしています。
今回は、令和6年度の障害年金の認定状況について、厚生労働省が実施した調査結果の概要をご紹介します。
厚労省で障害年金の認定状況を調査
障害年金の審査が厳格化しているとの報道がでた
令和7年3月13日、共同通信から「障害年金、不支給が増加か 24年、精神・発達は2倍」との報道がありました。
その後も、共同通信から、「障害年金、不支給が倍増3万人に 24年度、幹部交代で厳格化か(同年4月28日)」、「障害年金判定、判断誘導の可能性 機構、医師の傾向と対策文書作成(同年4月29日)」との報道が続きました。
当事務所にも、「障害年金の審査が厳しくなっていると聞きましたが、本当ですか?」とのお問い合わせを多くいただきました。
厚労省が抽出調査・ヒアリングを実施
一連の報道を踏まえ、厚生労働省は、日本年金機構と連携して令和6年度の障害年金の認定状況について調査し、併せて担当職員等へのヒアリングを実施しました。
その調査結果が、令和7年6月11日に公表されました。
障害年金の審査は本当に厳しくなったのか
調査報告書(概要)
令和6年度決定分から新規裁定(1,000件)と再認定(10,000件)を抽出して集計・個別調査した結果(概要)は以下のとおりでした。


令和6年度の障害年金の認定状況についての調査報告書_概要(1)(2)|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/12512000/001502248.pdf
不支給が増えたのは本当だった
調査報告書をざっくりと解説しますと、令和6年度に決定した新規裁定について、無作為に1,000件を抽出して集計したところ、以下のような結果だったため、「審査が厳しくなった!」との印象につながりました。
- 等級非該当(不支給)の割合が前年度より上昇(8.4%(R5) → 13.0%(R6))
- 精神障害で不支給だったもののうち、「障害等級の目安より下位等級に認定され不支給となったケース」「目安が2つの等級にまたがるものについて下位等級に認定され不支給となったケース」が増えた(44.7%(R5) → 75.3%(R6))
わざと厳しい審査をしたわけではない
その一方で、ヒアリング等の結果から、組織的に認定をコントロールする意図のものは見当たりませんでした。
すなわち、「不支給の割合が増えたのは本当だけれど、わざと厳しい審査をしたわけではない」という結果でした。
なお、丁寧さを欠いた対応が一部に見受けられたこともあり、「もしかして…」と疑念を抱かれる一因となっていたとの反省に立ち、いくつかの改善が図られる予定もあるようです。
調査結果をもう少し詳しく
調査結果をもう少し詳しくお伝えすると、以下のとおりです。
- 新規裁定1,000件を無作為抽出して集計した結果、非該当は13.0%。令和5年度の非該当割合(8.4%)より上昇し、令和元年度の障害年金業務統計公表開始後、過去最高だった令和元年度(12.4%)とおおむね同水準。
- 非該当割合を種類別にみると、精神障害で12.1%、外部障害で10.8%、内部障害で20.6%。令和5年度(精神障害6.4%、外部障害10.2%、内部障害19.4%)と比較すると、精神障害の非該当割合の上昇が大きい。
- 内部及び外部障害は、医学的な検査数値等の客観的な指標が障害認定基準に定められており、不支給事案の個別確認の結果、判断の理由が審査資料に明確に記載されているなど、特段の問題点等は確認できなかった。
- 精神障害は、ガイドラインや障害等級の目安が定められている。この障害等級の目安との関係をみると、不支給事案に占める「目安より下位等級に認定され不支給となっているケース」又は「目安が2つの等級にまたがるものについて、下位等級に認定され不支給となっているケース」の割合は75.3%となっていた。
- 再認定10,000件を無作為抽出して集計した結果、支給停止は1.0%。令和5年度の支給停止割合(1.1%)と同水準。
- 障害年金センター長から「認定の根拠を明確にすべき」等の指摘はあった。
- 理事長やセンター長等が「審査を厳しくすべき」といった指示を行っていた等の事実は確認できなかった。
- 認定医に関する文書は、担当者間で引継等に使用。職員が担当する認定医は1~3名程度等であり、選択する余地はほとんどない。組織的に認定をコントロールする意図のものとは認められない。ただし、一部に適切ではない記載内容(認定の傾向に関することなど)が含まれていた。
- 診断書等に疑義があった場合は医師等へ照会する。認定基準に定めるプロセスを逸脱している事実は確認できなかった。
- 審査書類に、判断の理由が明確に記載されているとはいえず、丁寧さに欠けるものが見受けられる。
- 理由付記文書も申請者にとって分かりにくい記載がある。
- 認定医の審査の参考となるよう、等級案も含め、事前確認票が作成されているが、障害等級の目安と、診断書等の内容(病状の経過、具体的な日常生活状況等)をもとに総合的に認定する仕組みの中では、職員による等級案の必要性は高くない。
- 令和6年度の不支給割合の上昇は、「障害等級の目安より下位等級に認定され不支給となっているケース」等が増えていることが寄与していると考えられる(44.7%(R5) → 75.3%(R6))。
- 令和7年3月の報道を踏まえ、精神障害の新規裁定のうち、その時点で認定医の審査過程で不支給と見込まれた審査中の事案について、より丁寧な審査を行う観点から、障害年金センターに配置される常勤医師による確認を実施し、約1割が支給となった。
不支給・下位等級事案の点検も実施へ
過去の事案について、障害認定基準やガイドラインに則り、適切な判定が行われているかどうかの点検(再調査)も行われるようです。
具体的には以下のとおりです。
- 精神障害等(障害認定基準上の「その他の疾患による障害」の基準に基づいて認定する障害を含む。以下同じ。)の令和6年度以降の不支給事案について、既に審査請求で裁決等が行われた事案を除き、改めて、速やかに、障害年金センターに配置される常勤医師を中心としたチームによる点検を行う。
- 精神障害について、令和6年度以降の、目安より下位の等級に認定され支給されている事案や、目安が2つの等級にまたがるものについて下位等級に認定され支給されている事案についても、速やかに同様の点検を行う。
- 点検の結果、必要なものは、処分を取り消し、改めて支給決定を行う。
点検の進捗状況については、日本年金機構のホームページ等で随時公表が行われるようです。
これは要注目ですね!
なお、令和4年度や令和5年度の精神障害等の事案については、「両年度の非該当割合は、令和6年度の調査結果の値と比較すると低いが、令和4年4月から職員による事前確認票に等級案を付すことが始まったことから、上記の点検結果を踏まえ、改めて整理を行う」とされています。
(つまり、令和6年度以降の点検の結果、処分変更が多いようだったら令和4~5年度についても点検するかもしれないが、そんなに処分変更がないようだったら点検はしない…ということのようです。)
年金機構職員のヒアリング回答
今回の調査結果には、日本年金機構の障害年金センターで実際に審査を担当した職員や、決裁にかかわっていた職員等へのヒアリング結果も紹介されていました。その中から一部をご紹介します。
こういう風に考えているのだな… ということがよく分かります。
- 障害等級の目安では2級とされていたが、カルテに症状は落ち着いていること、買い物等ができるとの記載があったほか、一般企業に一般雇用されているものの業務内容は単純作業であり、しばしば休むということを総合的に判断し、就労に制限がある状態として3級とした。
- 一人暮らしとある一方で福祉サービスを受けていないため、日常生活の調査をしたところ、日常生活はある程度できていることから、目安2級ではあるが事前は3級とし、認定医からも3級と判断された。
- 福祉サービスなく単身生活をしている。診断書にコミュニケーション苦手でサポートを受けている旨の記述があるが、具体的な事情はない。週4日飲食店で援助なくバイトしており、通勤も片道1時間できている。
- 独居だが援助が必要な状況があり、診断書により症状が不安定で日常生活が困難とあり2級と判断していたが、認定医に診せると、目安の平均が低く、家庭内の生活はできるが時に援助が必要、ヘルパー不要ということで、3級と判断された。
- 診断書では独居に家族支援はなく、福祉サービスも受けられていないとあり、病歴・就労状況等申立書の日常生活状況には自発的にできると記載されているので、著しい制限があるとまではいえないと判断した。
- 不支給処分後、事後重症請求されることが多い印象。中身が変わらず、不支給にするというケースがある一方、書きぶりはほとんど変わらないが、入院記録があったので、カルテ照会をした結果、2級に転じたというケースもある。
- 精神の診断書は障害の状態を重く書いていることがあり、カルテ照会をしてカルテを見るとそんなことは書かれていないということがある。
- 再認定では、障害の状態が前回と全く変わっていないのに支給停止になるということはあってはならないこと。そういった認定は出さないように、認定医にも過去の認定も説明して丁寧に見ていただいている。
ヒアリング回答として、こんな率直な声もありました。一部をご紹介します。
- 難しい判断のために、みんな悩んでいると思う。自分は少なくともそう。責任が重くなっていると思う。今後の請求者の人生に影響してくるものなので。
- 決定は様々な職員、認定医が確認している。また、サービススタンダードを守るために、量が多くても頑張って対応している。残業も含めて一生懸命頑張ってきた。コントロールしてやろうという考えはない。
- 不支給にするのは仕事量が増えるので、わざわざ増やすことはしない。単に審査した結果という認識。
- 経験を積むと、診断書と病歴・就労状況等申立書が合わないことに気がつくようになる。
- 軽症の人が申請しているという実感はある。制度として広がり、知ってもらう機会が増えたとも思える。
障害年金の認定をより客観的・公平なものへ
令和6年度決定分からの抽出調査の結果とその分析を踏まえ、より客観的かつ公平な認定を行う観点から、以下の対応を行うとされました(時期は未定)。
(1)事前確認票等の運用改善
職員が事前確認票を記載する際には、認定医が合理的かつ明確な理由をもって判断できるよう、「職員特記事項」欄等に丁寧に記載することを周知徹底する。
認定調書についても、合理的かつ明確な理由を「認定医からの障害の程度の評価・事務連絡等」欄に丁寧に記載するよう、認定医に周知を図る。
精神障害については、職員が事前確認票に等級案を記載することを廃止する。
(2)担当認定医の無作為での決定
担当者がどの認定医に審査を依頼するかについては、客観性及び公平性の確保を徹底するため、担当者が作業を行う前に、所属とは別の部署が無作為に決定する。
(3)理由付記の改善
理由記載事務連絡を改正し、理由付記文書について、申請者にとって、よりわかりやすい記載となるよう、ルールを整備し、改正後の事務連絡に基づいた理由付記を徹底する。
(4)認定事例の作成・考慮要素の徹底
判断のポイントを付した具体的な認定事例を作成し、職員及び認定医に周知を実施する。例えば、ガイドラインで
- 労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、(中略)他の従業員との意思疎通の状況などを十分確認したうえで日常生活能力を判断する。
- 一般企業での就労の場合は、月収の状況だけでなく、就労の実態を総合的にみて判断する。
とあるもの等について、認定に至った具体的な認定事例を判断のポイントと併せて共有する。
(5)認定医に関する文書の廃止
認定医に関する文書については、今後は作成しない取扱いを徹底する。
(6)複数の認定医による審査の拡大
審査の客観性や公平性を高める観点から、全ての不支給事案について、複数の認定医が審査を行うこととする。
(7)障害認定審査委員会の活用
複数の認定医が審査した事案について、その意見が分かれた場合は、障害認定審査委員会に付議することとなっている。今般の調査では、付議された事案は抽出されなかったが、障害認定審査委員会は、審査に当たっての考え方について、複数の委員の意見を確認することができる有意義な仕組みである。
委員会の客観性や透明性を高め、本仕組みをさらに活用していく観点から、福祉職等の外部の者の委員会への参画や、付議された事例を、都度、認定医に広く共有するなどの取組を進める。
(8)障害年金に関する情報の公表
現在、障害年金業務統計は年に一度の公表となっているが、障害年金制度の運用の透明化を図る観点から、公表頻度を高めること等を含め、障害年金業務統計の公表のあり方を見直す。
リンク
2025年6月11日
「令和6年度の障害年金の認定状況についての調査報告書」を公表します|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/newpage_00198.html
2025年6月11日
調査報告書概要(PDF)|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/12512000/001502248.pdf
2025年6月11日
調査報告書(PDF)|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/12512000/001502249.pdf
2025年3月13日
【独自】障害年金、不支給が増加か 24年、精神・発達は2倍(共同通信)|Yahoo!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/articles/9ea402f67ecd53b58c11038e6b87dee01510d24f
2025年4月28日
【独自】障害年金、不支給が倍増3万人に 24年度、幹部交代で厳格化か(共同通信)(記事は削除)|Yahoo!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/articles/ebbadf68853fcdbdf85fa50f1332f35834fa1dbc
2025年4月29日
【独自】障害年金判定、判断誘導の可能性 機構、医師の傾向と対策文書作成(共同通信)|Yahoo!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/articles/685586944b116f8a8cf8a542111c9199a72eb9ed