こんにちは。障害年金の受給を応援している社会保険労務士の小川早苗です。このサイトでは障害年金の受給に関する様々な情報をお伝えしています。
今回は、障害年金のデメリットに関するお話です。
障害年金を受給することでデメリットがあるとすれば、受給しない方がよいかもしれません。
結論としては、障害年金を受給することに大きなデメリットはありません。しかし、考えられるデメリットを事前に知っておくことは大切です。
そこで今回は、障害年金を受給した場合に考えられるデメリットを解説します。
なお、かなりこじつけのデメリットもあります。それだけデメリットといえるデメリットはないんだ、とお考えいただければと思います。
老齢年金が少なくなる場合がある
2級以上の障害年金を受給すると国民年金第1号の保険料が法定免除となり、保険料を納付する必要はなくなります。(※ 厚生年金保険の保険料は免除されません。)
法定免除の期間は、実際には保険料を納付しなくてもその期間の2分の1を全額納付済の期間と同様にみなして老齢基礎年金の額を計算することになっています。(例えば、法定免除の期間が24か月の場合、全額納付済の期間が12か月あるのと同等と考えて額を計算します。)
しかし、裏を返せば法定免除の期間は2分の1しか反映されずに老齢基礎年金の額が計算されるので、保険料を全額納付した場合と比較すると老齢基礎年金の額は少なくなります。
障害基礎年金をずっと受給できる場合は、老齢基礎年金の減額を心配する必要はありません。なぜなら、障害基礎年金と老齢基礎年金の両方を受給することはできず片方しか受給できないので、障害基礎年金が受給できるのであれば障害基礎年金を選択すればよいからです。
しかし、障害年金(障害基礎年金、障害厚生年金)は障害状態の変化によって支給が停止することもあり、老後もずっと障害年金を受給できるとは限りません。
障害基礎年金が支給停止になった場合は、65歳以降は老齢基礎年金を受給することになると思います。このとき、老齢基礎年金の支給額は、年金保険料を全額納付していた場合と比べて(法定免除の期間の分だけ)少なくなってしまうのです。
配偶者に加給年金がつかなくなる
一定の要件を満たす老齢厚生年金の受給者や障害厚生年金(1級・2級)の受給者に生計を維持している配偶者がいる場合、老齢厚生年金や障害厚生年金に「配偶者の加給年金」が加算されます。
しかし、配偶者自身が障害年金(3級を含む)を受けていると、配偶者を生計維持しているとはみなされなくなるため、老齢厚生年金や障害厚生年金に「配偶者の加給年金」が加算されません。
例えば、夫が加給年金が加算された老齢厚生年金を受給できる場合、妻の状況によって下のようになります。
今まで 夫:老齢厚生年金+加給年金 妻:年金なし
障害年金を受給後 夫:老齢厚生年金(加給年金なし) 妻:障害年金
上の事例では、今まで夫に加算されていた加給年金がつかなくなります。
ただし、加給年金は約22万~39万円(年額)です。加給年金がつかなくなっても、それ以上の額の障害年金が妻に支給されるので、世帯収入の合計額で考えるとデメリットにはなりません。
老齢年金の繰下げができなくなる
老齢基礎年金や老齢厚生年金は、受給開始を繰下げることで支給額が増額されます。
しかし、老齢年金をもらい始める前に障害年金の受給権があると老齢年金の繰下げはできなくなります。
65歳に達した日~66歳に達した日までの間が以下の状態の場合、老齢年金の繰下げ請求はできません
- 障害基礎年金の受給権がある → 老齢基礎年金の繰下げはできない(老齢厚生年金は繰下げできる)
- 障害厚生年金の受給権がある → 老齢基礎年金・老齢厚生年金の繰下げはできない
ただし、老齢年金は課税収入ですが障害年金は非課税収入であること、老齢年金の受給開始より何年も前から障害年金を受給し始めた場合の総受給金額などを考えると、老齢年金の繰下げ受給によって得られたであろう増額メリットは少ない場合が多いです。
勤務先に知られる場合がある
障害年金を受給していることを勤務先に伝える必要はありません。年末調整においても申告は不要です。
※ 年末調整は税金の計算に必要な手続きです。障害年金は非課税なので、年末調整や確定申告の際に障害年金の額を収入に含める必要はありません。
基本的には、自分が言わない限り勤務先が障害年金の受給を知ることはありません。
しかし、健康保険の傷病手当金を申請する場合は、支給申請書に障害年金のことを記入する欄があるため、傷病手当金を勤務先経由で手続きする場合は、勤務先が障害年金の受給を知ることになります。
- 「障害厚生年金」または「障害手当金」を受給中または請求中
- 障害年金の受給の要因となった傷病名
- 基礎年金番号・年金コード・支給開始年月日・年金額(受給中の場合)
なお、障害基礎年金のみを受給している場合は記入する必要はありません。
また、障害年金のことを記入するのは「被保険者記入用」ページなので、勤務先には「事業主記入用」ページだけを記入してもらい、勤務先経由ではなく自分で申請する方法もあります。(ただし、健康保険組合の場合など、勤務先を経由する必要があるケースもあります)。
傷病手当金が減額される
健康保険の被保険者が病気やケガのために会社を休み、事業主から十分な報酬が受けられない場合、傷病手当金が支給されます。
同じ病気やケガで傷病手当金と障害厚生年金の両方を受給できる場合、傷病手当金は支給されません。
ただし、「障害厚生年金の額(同時に障害基礎年金を受けられるときはその合計額)の360分の1」と「傷病手当金の日額」を比較して、傷病手当金の方が高い場合、その差額分は傷病手当金から支給されます。
したがって、傷病手当金だけの場合と、障害年金と傷病手当金を併給した場合とを比較すると、合計額で考えればデメリットはありません。強いて言えば、傷病手当金を先に受給していた場合は返還手続きが必要になります(返還は重複部分のみです)。
また、以下の場合は傷病手当金は減額されません。
- 病気やケガの理由が両者で異なる場合
- 障害基礎年金だけの場合
なお、障害年金ではなく障害手当金の場合は調整の方法が異なります。障害手当金が受けられる場合は、「傷病手当金の合計額」が「障害手当金の額」に達する日まで傷病手当金は支給されません。
生活保護費が減額される
生活保護費は、収入があった場合はその収入分が減額されることになっています。この収入には障害年金も含みます。
したがって、生活保護費を受給している人が障害年金も受給できるようになった場合は、生活保護費は障害年金の分だけ減額されます。
生活保護費だけの場合と、障害年金と生活保護費を併給した場合とを比較すると、合計額で考えればデメリットはありません。
また、障害年金の受給によって生活保護費に障害者加算がつき、合計額が増えるケースもあります。
労災給付が減額される
労災事故(業務災害・通勤災害)による病気やケガで障害がある場合にも障害年金は支給されます。
しかし、その場合には労災給付が一定割合(73~88%)で減額されます。
ただし、「減額調整後の労災給付と障害年金の合計額」と「減額前の労災給付額」とを比較して、減額前の労災給付額の方が高い場合、その差額分は労災給付から支給されます。
したがって、労災給付だけの場合と、障害年金と労災給付を併給した場合とを比較すると、合計額で考えればデメリットはありません。強いて言えば、労災給付を先に受給していた場合は返還手続きが必要になります(返還は重複部分のみです)。
また、以下の場合は労災給付は減額されません。
- 病気やケガの理由が両者で異なる場合
- 労災給付のうちの特別給付金の部分
なお、障害年金が20歳前に初診日がある傷病(20歳前傷病)による障害基礎年金の場合は、労災給付の方が全額支給され、障害基礎年金は全額支給停止になります。
家族の扶養から外れる場合がある
健康保険の被扶養者になる要件は、一般的には収入額が130万円未満であることです。130万円以上になると扶養から外れます。よく言われる「130万円の壁」です。
障害年金の受給者の場合は、この壁の高さが変わります。障害年金と他の収入との合計が180万円以上になると健康保険の扶養から外れることになっています。130万円以上ではありません。
扶養から外れると、自分で医療保険制度(国民健康保険など)に加入しなければならず、国民健康保険などの保険料を納付する必要が生じます。
さらに、配偶者の扶養になっていた場合は、扶養から外れることで国民年金の種別が第3号から第1号に変更されます。障害等級が2級以上の場合は法定免除になるので保険料を納付する必要はありませんが、3級の場合は法定免除にはならないため、国民年金の保険料を納付する必要が生じます。(ただし、申請することによって全額または一部分が納付免除になる場合もあります。)
したがって、障害年金以外の収入がある場合は注意が必要です。
ただし、障害年金だけで180万円以上となることはほとんどないため、障害年金のほかに収入がない場合は扶養から外れるケースは少ないと思われます。
所得制限で年金がもらえなくなる場合がある
障害基礎年金は、国民年金の被保険者(または被保険者だった人)に対する年金ですが、例外的に、20歳より前に初診日がある傷病(20歳前傷病)の場合にも障害基礎年金が支給されます。
国民年金の被保険者(または被保険者だった人) は、ある程度の保険料を納付している必要がありますが、20歳前傷病の障害基礎年金を受給している人は、保険料を納付していなくても年金を受け取れます。
このことから、保険料を納付している人との公平性を保つため、20歳前傷病の障害基礎年金を受給している人には所得制限があります。
具体的には、前年の所得が4,621,000円を超えると年金が全額支給停止となり、3,604,000円を超えると年金の半分が支給停止になります。
なお、この基準額は「手取り額」ではなく「所得」です。
第三者行為事故の場合はすぐにもらえないことがある
交通事故など、病気やケガの原因が第三者の行為による場合、第三者(交通事故の相手など)から損害賠償を受けることができます。
第三者から損害賠償を受けた場合には、一定期間、その損害賠償の価額の限度で年金が支給停止されます。
支給停止になるのは事故が発生した日から最長で3年間(36月)です。支給停止の期間が過ぎれば、障害年金は全額支給されます。
また、支給調整の対象になるのは、受け取った賠償金のうち休業損害や逸失利益など生活保障に相当する部分のみです。治療費などの実費や慰謝料などは調整の対象にはなりません。
死亡一時金はもらえない
国民年金の第1号被保険者として年金保険料を3年以上納めていて、その方が老齢基礎年金や障害基礎年金を受ける前に亡くなってしまった場合に、その埋め合わせの意味で、一定の要件を満たす遺族に支給されるのが死亡一時金です。
したがって、障害基礎年金を受給すると、その方が亡くなったときに遺族に死亡一時金は支給されません。
すなわち、障害年金を受給する自分ではなく遺された遺族に対するデメリットです。
また、死亡一時金は最大でも36万円(1回限り)なので、障害年金の額と比較するとデメリットとならないことがほとんどです(障害基礎年金の受給期間がごく短い場合を除きます)。
なお、遺族が遺族基礎年金を受給できるときは死亡一時金は支給されず、遺族基礎年金が支給されます。
寡婦年金はもらえない
国民年金の第1号被保険者として年金保険料を10年以上納めていて、その方が老齢基礎年金や障害基礎年金を受ける前に亡くなってしまった場合に、その埋め合わせの意味で、一定の要件を満たす妻に支給されるのが寡婦年金です。
障害基礎年金を受給した方が亡くなった場合、遺された妻に寡婦年金は支給されません。
したがって、障害年金を受給する自分ではなく遺された妻に対するデメリットです。
妻がいない、国民年金第1号被保険者の納付期間が短いなど、そもそも寡婦年金の受給要件を満たさない場合も多いです。
手続きに時間がかかる
障害年金の請求手続きは、老齢年金や遺族年金の請求手続きと比較すると添付すべき書類が多いため、書類を揃えるのに多くの時間と労力を要する場合があります。
さらに、請求してから支給が決定するまでに平均で約3ヶ月、そのあとに実際の支給が始まるまで平均で約1か月かかります。
これらを総合すると、障害年金を請求しようと思い立ってから実際の支給が開始されるまで半年かかるケースが多いです。
もちろん、時間と労力がかかったとしても請求日(場合によっては障害認定日や5年前)の翌月に遡って年金が支給されます。
更新の手続きが必要
障害年金は、永久認定された場合を除き、1年~5年ごとに更新の手続きを行う必要があります。手続きを行わないと支給が差し止めになるので、支給の継続には必ず更新手続きを行わなければなりません。
更新の手続きは、原則は診断書を提出するだけです。ただし、診断書を入手するためには受診が必要ですし診断書代もかかります。
さらに、手続きを行っても必ず更新されるとは限らず、障害等級に該当しなくなったと認定されて支給が停止になる場合もあります。
支給が停止になる場合もあることが気になり、「次の更新でダメになったらどうしよう…。」と不安になって心理的負担を感じる方もいらっしゃいます。
ただし、一度支給が決まった障害年金の受給権は消えません(3級不該当になって3年経過し65歳になったときなど、失権する例外もあります)。
支給が停止になっても、再び障害等級に該当するようになった場合には支給停止事由消滅届と診断書を提出し、審査の結果、障害等級に該当していると認められれば支給が再開します。
受給することを負担に感じる方も
障害年金は、支給要件に該当すれば当然に受給する権利があります。
しかし、障害年金を受給することを負い目に感じる方もいらっしゃいます。
例えば、年金の受給者が増えると年金制度が破綻する…というウワサ話を気にして、自分が受給するのは年金制度の破綻を早めることになるかもしれないので申し訳ない…と気にされる方がいらっしゃいます。
しかし、向こう100年先まで存続するように制度設計されています。不正受給はいけませんが、支給要件に該当して年金を受給することに負い目を感じる必要は全くありません。65歳になってしまって老齢年金を受給するのが申し訳ない…などと感じる必要がないのと同じです。
あるいは、障害年金の支給が決定することで、「国が自分のことを障害者だと認めた。」「これで自分もとうとう障害者になってしまった。」との事実が辛く感じる方もいらっしゃいます。
障害年金は、病気やケガによって生活や労働に支障がある場合に、その経済的損失を少しでも穴埋めしようという趣旨のものです。障害者の定義は様々ですが、障害者に支給する年金というのとは少し意味が異なります。(「障害者年金」と言い間違える人もいますが、正しくは「障害年金」です。)
年金は、困ったときに支給されるものです。困ったときとして「高齢」「障害」「死亡」の3種類を想定しています。障害年金は、困ったことが起きた(=病気やケガで生活や仕事が思うようにならない)ときに、困っている間だけ支給されます。困っているときは受給する、そのようにシンプルに考えてよいと私は思います。
【結論】障害年金に大きなデメリットはない
ここまで、障害年金の受給によって考えられるデメリットを見てきました。
デメリットとはいっても、「合計額(世帯単位)で見ると最終的にはデメリットとはいえない」というものがほとんどです。
見方によってはデメリットもあるんだということを知ったうえで、支給要件に該当する方はぜひ障害年金の手続きをとることを前向きに考えてみてはいかがでしょうか。