こんにちは。障害年金の手続きを支援している社会保険労務士の小川早苗です。このサイトでは障害年金に関する様々な情報をお伝えしています。
今回は障害認定日に関するお話です。
障害年金は「障害認定日」になってから請求することができます。
では、障害認定日とはいつのことを指すのでしょうか。ここでは、障害認定日の意味とその把握の仕方を解説します。
障害認定日とは
障害年金において、障害の程度の認定を行うべき日のことを「障害認定日」といいます。
障害年金の支給を受けるには「一定程度の障害状態であること」が要件の一つになっています。
ただし、病気やケガをしてすぐの状態で障害の程度をみるわけではありません。一定の期間治療を受け、それでも残っている障害の状態で認定を行うことになります。
この障害状態の認定を行うべき日が障害認定日です。
障害認定日において一定の障害状態にあるかどうか…を診査するのです。
「障害認定日」に一定程度の障害状態にない場合はどうなるのでしょうか。この場合には、一定程度の障害状態に該当した日に改めて請求を行います。これを「事後重症による請求」といい、この場合は「請求日」の障害の状態を診査することになります。
障害認定日の原則
障害認定日は、原則と例外があります。
原則の障害認定日は、初診日から起算して1年6か月を経過した日です。
例えば、初診日が令和2年2月10日ならば、原則の障害認定日は令和3年8月10日です。
障害年金は障害認定日にならないと請求できません。つまり、原則では初診日から1年6か月を過ぎるまで待たないと障害年金の支給を受けることはできないのです。
初診日から起算して1年6か月を経過した日
なお、起算日である初診日の考え方については、以下の記事をご覧ください。
障害年金における初診日の正しい意味をご存じですか?障害認定日の例外①
障害認定日には例外があります。
初診日から起算して1年6か月以内にその傷病が「治った」場合は、その治った日を障害認定日とすることになっています。
例えば、初診日が令和2年2月10日で令和3年3月20日に治った場合は、原則の障害認定日(令和3年8月10日)ではなく、治った日(令和3年3月20日)が障害認定日になります。
すなわち、原則の障害認定日よりも障害認定日が早まるということです。
なお、障害年金における「治った」には、一般的に考えるような「元どおりに治った」という概念だけではなく、その症状が固定し、治療の効果が期待できない状態に至った日を含むこととされています。
もう少し正確に表現すると、障害年金における「治った場合」とは、「器質的欠損もしくは変形または機能障害を残している場合は、医学的に傷病が治ったとき、または、その症状が安定し、長期にわたってその疾病の固定性が認められ、医療効果が期待しえない状態に至った場合」と定義されています。
初診日から起算して1年6か月以内にその傷病が治った場合においては、その治った日(その症状が固定し、治療の効果が期待できない状態に至った日を含む)
傷病が治った(症状が固定した)かどうかの判断は、非常に厳密に判断されています。したがって、治ったものとして障害年金を請求しても、審査の結果、まだ治っていない(原則の障害認定日まで待ってください)と却下される場合もあります。
障害認定日よりも後に治った場合
初診日から1年6か月を過ぎてから治った場合はどうなるでしょうか。
この場合は、治った日まで障害認定日を後ろへずらすことはせず、原則どおり初診日から起算して1年6か月を経過した日が障害認定日となります。
例えば、初診日が令和2年2月10日で、その約3年後(令和5年3月20日)に治った場合は、3年後まで待つ必要はなく、原則どおりの令和3年8月10日が障害認定日になります。
障害認定日の特例
上で説明した「治った日」の具体例のことを「障害認定日の特例」ということがあります。
すなわち、「特例」に該当した場合はそれを「治った日」と捉え、その日が初診日から起算して1年6か月の経過前にある場合は、その特例に該当した日が障害認定日になります。
障害認定日の特例は、「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」の各認定要領の中で示されています。
障害認定日の特例をピックアップしたものを下に示します。
- 咽頭全摘出の場合:全摘出した日
- 人工骨頭または人工関節を挿入置換した場合:挿入置換した日
- 切断または離断による肢体の障害:切断または離断した日(障害手当金または旧法の場合は、創面が治癒した日)
- 脳血管疾患による機能障害:初診日から6か月経過した日以後であって、医学的観点から、それ以上の機能回復がほとんど望めないと認められるとき
- 在宅酸素療法を行っている場合:在宅酸素療法を開始した日(常時使用の場合)
- 心臓ペースメーカー、植え込み型除細動器(ICD)または人工弁を装着した場合:装着した日
- 心臓移植、人工心臓、補助人工心臓:移植した日または装着した日
- CRT(心臓再同期医療機器)、CRT-D(除細動器機能付き心臓再同期医療機器):装着した日
- 胸部大動脈解離や胸部大動脈瘤により人工血管(ステントグラフトを含む)を挿入置換した場合:挿入置換した日
- 人工透析療法を行っている場合:透析を受け始めてから3か月を経過した日
- 人工肛門の増設または尿路変更術を施術した場合:造設または手術をした日から起算して6か月を経過した日(※1)
- 新膀胱を増設した場合:増設した日(※1)
- 現在の医学では、根本的治療方法がない疾病であり、今後の回復は期待できず、初診日から6か月を経過した日以後において気管切開下での人工呼吸器(レスピレーター)使用、胃ろう等の恒久的な措置が行われており、日常の用を弁ずることができない状態であると認められるとき
- 遷延性植物状態:その状態に至った日から起算して3か月を経過した日以降に、医学的観点から、機能回復がほとんど望めないと認められるとき(※2)
※1 人工肛門を増設し、かつ他にも該当する場合は、以下の日が障害認定日になります。なお、以下の場合であっても、該当日が初診日から起算して1年か6か月を超える場合は、原則どおり1年か6か月を経過した日が障害認定日になります。
- 人工肛門を造設し、かつ新膀胱を造設した場合は、人工肛門を造設した日から起算して6か月を経過した日または新膀胱を造設した日のいずれか遅い日(初診日から起算して1年6か月を超える場合を除く)
- 人工肛門を造設し、かつ尿路変更術を施した場合は、それらを行った日のいずれか遅い日から起算して6か月を経過した日(初診日から起算して1年か6月を超える場合を除く)
- 人工肛門を造設し、かつ完全排尿障害状態にある場合は、人工肛門を造設した日または完全排尿障害状態に至った日のいずれか遅い日から起算して6か月を経過した日(初診日から起算して1年6か月を超える場合を除く)
※2 遷延性植物状態は、次の1.~6.に該当し、かつ、3か月以上継続しほぼ固定している状態において診断されます。なお、3か月の起算日は、遷延性植物状態の診断日ではなく、下記の6項目に該当した日です。
- 自力で移動できない
- 自力で食物を摂取できない
- 糞尿失禁をみる
- 目で物を負うが認識できない
- 簡単な命令には応ずることもあるが、それ以上の意思疎通ができない
- 声は出るが意味のある発語ではない
障害認定日の例外②
20歳前の年金制度の加入する前に初診日があり、かつ初診日から起算して1年6か月を経過した日も20歳前の場合は、障害の程度を認定する日が原則とは異なります。
この場合の障害の程度を認定する日は、20歳に達した日(20歳の誕生日の前日)になります。
例えば、平成15年1月23日生まれで初診日が令和2年3月10日の場合は、原則の障害認定日(令和3年9月10日)はまだ20歳前(18歳)です。したがって、20歳に達する日(令和5年1月22日)が障害の程度を認定する日になります。
ただし、同じく20歳前に初診日があっても、初診日から起算して1年6か月を経過した日が20歳を過ぎているのならば、原則どおり初診日から1年6か月を経過した日が障害認定日になります。
例えば、平成15年1月23日生まれで初診日が令和4年3月10日の場合は、原則どおり初診日から1年6か月を経過した日の令和5年9月10日が障害認定日です。20歳に達する日(令和5年1月22日)はまだ初診日から1年6か月を経過した日に至っていないので、障害認定日にはなりません。
すなわち、20歳前に初診日がある場合は、早くても20歳に達するまでは待つ必要があるけれど、必ずしも20歳に達した日になるとは限らない(それ以降になる場合もある)ということです。
20歳に達する前の年金制度に未加入の時期に初診日があり、かつ初診日から起算して1年6か月を経過した日も20歳に達する前の場合は、20歳に達した日(20歳の誕生日の前日)
障害認定日のまとめ
障害認定日をまとめると下のようになります。20歳前に初診日がある場合だけは他と異なるので注意が必要です。
- 初診日から起算して1年6か月を経過した日
- 初診日から起算して1年6か月以内にその傷病が治った場合は、その治った日(症状が固定した日を含む)
- 初診日から起算して1年6か月以内に特例に該当する場合は、特例に該当した日
- 20歳前の年金制度に未加入の時期に初診日があり、かつ初診日から起算して1年6か月を経過した日が20歳前の場合は、20歳に達した日(20歳の誕生日の前日)
障害認定日の具体例
障害認定日の考え方について、以下の具体例で確認しましょう。
傷病名:慢性閉塞性肺疾患
初診日:平成29年1月15日
障害認定日:平成30年7月15日(初診日から1年6か月を経過した日)
※ 在宅酸素療法を令和2年3月20日に開始した場合であっても、障害認定日は変わらない(在宅酸素療法を開始した日が障害認定日になる訳ではない)
傷病名:大動脈弁閉鎖不全症
初診日:平成29年1月15日
障害認定日:平成29年8月20日(人工弁を装着した日)
※ 初診日から1年6か月を経過した日よりも前に症状が固定したと認定
病名:自閉症スペクトラム
出生日:平成15年1月23日
初診日:令和2年3月10日(17歳)
障害認定日:令和5年1月22日(20歳の誕生日の前日)
※ 初診日から1年6か月を経過した日(令和3年9月10日)は18歳
リンク
国民年金・厚生年金保険 障害認定基準|日本年金機構 https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/shougainenkin/ninteikijun/20140604.html