こんにちは。障害年金の受給を応援している社会保険労務士の小川早苗です。このサイトでは障害年金に関する様々な情報をお伝えしています。
今回は呼吸器疾患による障害の認定基準に関する情報です。
障害年金に該当する障害の状態については、国民年金法施行令(別表)および厚生年金保険法施行令(別表第1・第2)に定められています。そして、より具体的な基準として「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」という通知が出されています。
ここでは、この「障害認定基準」の中から呼吸器疾患による障害の認定基準を抜粋してご紹介します。
呼吸器疾患の区分
呼吸器疾患による障害の認定対象は、ほとんどが慢性呼吸器不全によるもので、特別な取り扱いを要する呼吸器疾患として、肺結核・じん肺・気管支喘息が挙げられています。
- 呼吸不全
- 肺結核
- じん肺
- 気管支喘息
認定基準
障害の程度 | 障害の状態 |
1級 | 長期にわたる安静を必要とする病状が、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの |
2級 | 日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの |
3級 | 労働が制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とする程度のもの |
障害の程度は、自覚症状、他覚所見、検査成績(胸部X線所見、動脈血ガス分析値等)、一般状態、治療及び病状の経過、年齢、合併症の有無及び程度、具体的な日常生活状況等により総合的に認定するものとし、当該疾病の認定の時期以後、少なくとも 1 年以上の療養を必要とするものとされています。
呼吸不全
障害等級の例
あくまでも例示であり、必ずしも下表に該当していなければ認定されないというわけではないことに留意します。
障害の程度 | 障害の状態 |
1級 | A表及びB表の検査成績が高度異常を示すもので、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの |
2級 | A表及びB表の検査成績が中等度異常を示すもので、かつ、一般状態区分表のエ又はウに該当するもの |
3級 | A表及びB表の検査成績が軽度異常を示すもので、かつ、一般状態区分表のウ又はイに該当するもの |
A表 動脈血ガス分析値
区分 | 検査項目 | 単位 | 軽度異常 | 中等度異常 | 高度異常 |
1 | 動脈血O2分圧 | Torr | 70~61 | 60~56 | 55以下 |
2 | 静脈血O2分圧 | Torr | 46~50 | 51~59 | 60以下 |
(注1)動脈血ガス分析値は安静時に行う
(注2)病状判定に際しては、動脈血O2分圧値を重視する
B表 予測肺活量1秒率
検査項目 | 単位 | 軽度異常 | 中等度異常 | 高度異常 |
予測肺活量1秒率 | % | 40~31 | 30~21 | 20以下 |
一般状態区分
区分 | 一般状態 |
ア | 無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふるまえるもの |
イ | 軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの(例えば、軽い家事、事務など) |
ウ | 歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の 50%以上は起居しているもの |
エ | 身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の 50%以上は就床しており、自力では屋外への外出等がほぼ不可能となったもの |
オ | 身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの |
認定における留意点
- 呼吸不全とは、原因のいかんを問わず、動脈血ガス分析値、特に動脈血O2分圧と動脈血 CO2分圧が異常で、そのために生体が正常な機能を営み得なくなった状態をいいます。
- 認定の対象となる病態は、主に慢性呼吸不全です。慢性呼吸不全を生じる疾患は、閉塞性換気障害(肺気腫、気管支喘息、慢性気管支炎等)、拘束性換気障害(間質性肺炎、肺結核後遺症、じん肺等)、心血管系異常、神経・筋疾患、中枢神経系異常等多岐にわたり、肺疾患のみが対象疾患ではありません。
- 検査成績としては、動脈血ガス分析値、予測肺活量1秒率、及び必要に応じて行う運動負荷肺機能検査等があります。
- 呼吸不全の障害の程度の判定は、A表の動脈血ガス分析値が優先されますが、その他の検査成績等も参考とし、認定時の具体的な日常生活状況等を把握して、総合的に認定することとされています。
肺結核
肺結核による障害の程度は、病状判定および機能判定により認定することとされています。
障害等級の例(病状判定)
あくまでも例示であり、必ずしも下表に該当していなければ認定されないというわけではないことに留意します。
障害の程度 | 障害の状態 |
1級 | 認定の時期前6月以内に常時排菌があり、胸部X線所見が日本結核病学会病型分類(以下「学会分類」という)のⅠ型(広汎空洞型)又はⅡ型(非広汎空洞型)、Ⅲ型(不安定非空洞型)で病巣の拡がりが3(大)であるもので、かつ、長期にわたる高度の安静と常時の介護を必要とするもの |
2級 | 認定の時期前6月以内に排菌がなく、学会分類のⅠ型若しくはⅡ型又はⅢ型で病巣の拡がりが3(大)であるもので、かつ、日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とするもの |
認定の時期前6月以内に排菌があり、学会分類のⅢ型で病巣の拡がりが1(小)又は2(中)であるもので、かつ、日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とするもの | |
3級 | 認定の時期前6月以内に排菌がなく、学会分類のⅠ型若しくはⅡ型又はⅢ型で、積極的な抗結核薬による化学療法を施行しているもので、かつ、労働が制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とするもの |
認定の時期前6月以内に排菌があり、学会分類Ⅳ型であるもので、かつ、労働が制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とするもの |
認定における留意点
- 障害の程度は、自覚症状、他覚所見、検査成績(胸部X線所見、動脈血ガス分析値等)、排菌状態(喀痰等の塗抹、培養検査等)、一般状態、治療及び病状の経過、年齢、合併症の有無及び程度、具体的な日常生活状況等により総合的に認定されます。
- 肺結核に、他の結核又は他の疾病が合併している場合は、その合併症の軽重、治療法、従来の経過等を勘案した上、具体的な日常生活状況等を考慮し、総合的に認定されます。
- 肺結核及び肺結核後遺症の機能判定による障害の程度は、「呼吸不全」の認定要領によって認定されます。
- 加療による胸郭変形は、それ自体は認定の対象となりませんが、肩関節の運動障害を伴う場合には、「上肢の障害」として、その程度に応じて併合認定の取扱いを行うこととされています。
- 「抗結核剤による化学療法を施行しているもの」とは、少なくとも 2 剤以上の抗結核剤により、積極的な化学療法を施行しているものをいいます。
じん肺
じん肺による障害の程度は、病状判定および機能判定により認定することとされています。
障害等級の例(病状判定)
あくまでも例示であり、必ずしも下表に該当していなければ認定されないというわけではないことに留意します。
障害の程度 | 障害の状態 |
1級 | 胸部X線所見がじん肺法の分類の第 4 型であり、大陰影の大きさが1 側の肺野の 1/3 以上のもので、かつ、長期にわたる高度の安静と常時の介護を必要とするもの |
2級 | 胸部X線所見がじん肺法の分類の第 4 型であり、大陰影の大きさが1 側の肺野の 1/3 以上のもので、かつ、日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とするもの |
3級 | 胸部X線所見がじん肺法の分類の第 3 型のもので、かつ、労働が制限を受けるか又は労働に制限を加えることを必要とするもの |
認定における留意点
- じん肺の病状による障害の程度は、胸部X線所見、呼吸不全の程度、合併症の有無及び程度、具体的な日常生活状況等により総合的に認定されます。
- じん肺の機能判定による障害の程度は、「呼吸不全」の認定要領によって認定されます。
気管支喘息
障害等級の例
あくまでも例示であり、必ずしも下表に該当していなければ認定されないというわけではないことに留意します。
障害の程度 | 障害の状態 |
1級 | 最大限の薬物療法を行っても発作強度が大発作となり、無症状の期間がなく一般状態区分表のオに該当する場合であって、予測肺活量 1 秒率が高度異常(測定不能を含む)、かつ、動脈血ガス分析値が高度異常で常に在宅酸素療法を必要とするもの |
2級 | 呼吸困難を常に認める。常時とは限らないが、酸素療法を必要とし、一般状態区分表のエ又はウに該当する場合であって、プレドニゾロンに換算して 1 日 10 ㎎相当以上の連用、又は 5 ㎎相当以上の連用と吸入ステロイド高用量の連用を必要とするもの |
3級 | 喘鳴や呼吸困難を週 1 回以上認める。非継続的なステロイド薬の使用を必要とする場合があり、一般状態区分表のウ又はイに該当する場合であって、吸入ステロイド中用量以上及び長期管理薬を追加薬として2剤以上の連用を必要とし、かつ、短時間作用性吸入β₂刺激薬頓用を少なくとも週に 1 回以上必要とするもの |
一般状態区分
区分 | 一般状態 |
ア | 無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふるまえるもの |
イ | 軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの(例えば、軽い家事、事務など) |
ウ | 歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の 50%以上は起居しているもの |
エ | 身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の 50%以上は就床しており、自力では屋外への外出等がほぼ不可能となったもの |
オ | 身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの |
認定における留意点
- 慢性気管支喘息については、症状が安定している時期においての症状の程度、使用する薬剤、酸素療法の有無、検査所見、具体的な日常生活状況等を把握して、総合的に認定することとされています。
- 上記表中の症状は、的確な喘息治療を行い、なおも、その症状を示すものを指します。
- 全国的に見て、喘息の治療が必ずしも専門医(呼吸器内科等)が行っているとは限らず、また、必ずしも「喘息予防・管理ガイドライン 2009(JGL2009)」に基づく治療を受けているとは限らないことに留意します。
- 喘息は、疾患の性質上、肺機能や血液ガスだけで重症度を弁別することには無理があるため、臨床症状、治療内容を含めて総合的に判定する必要があるとされています。
- 「喘息+肺気腫(COPD)」あるいは、「喘息+肺線維症」については、「呼吸不全」の基準で認定されます。
その他の留意点
在宅酸素療法にかかる取り扱い
- 常時(24 時間)の在宅酸素療法を施行中のもので、かつ、軽易な労働以外の労働に常に支障がある程度のものは 3 級と認定されます。
- 臨床症状、検査成績及び具体的な日常生活状況等によっては、さらに上位等級に認定されます。
- 障害の程度を認定する時期は、在宅酸素療法を開始した日(初診日から起算して 1 年 6 月を超える場合を除く)となります。
肺血管疾患にかかる取り扱い
- 原発性肺高血圧症や慢性肺血栓塞栓症等の肺血管疾患については、A表及び認定時の具体的な日常生活状況等によって、総合的に認定されます。
慢性肺疾患にかかる取り扱い
- 慢性肺疾患により非代償性の肺性心を生じているものは 3 級と認定されます。
- 治療及び病状の経過、検査成績、具体的な日常生活状況等によっては、さらに上位等級に認定されます。
- 慢性肺疾患では、それぞれ個人の順応や代償という現象があり、また他方では、多臓器不全の病状も呈してくることから、呼吸機能検査成績が必ずしも障害の程度を示すものとは言えないとされています。
肺手術後の初診日の取り扱い
- 肺疾患に罹患し手術を行い、その後、呼吸不全を生じたものは、肺手術と呼吸不全発生までの期間が長いものであっても、相当因果関係があるものと認められます。
- 相当因果関係の意味については以下の記事の中で解説しています。
対象となる疾病例
呼吸器疾患による障害の対象となる疾病には以下のようなものがあります。
障害認定基準(原文)
障害認定基準のうち、呼吸器疾患による障害の認定基準(原文の抜粋版)は下のリンクから見ることができます。