こんにちは。障害年金の手続きを支援している社会保険労務士の小川早苗です。このサイトでは障害年金の受給に関する様々な情報をお伝えしています。
今回は、児童扶養手当と障害年金のお話です。
社会保障の制度の中には、複数の受給要件を満たしていても、両方から満額が支給される訳ではないというものがあります。組み合わせによって、いずれか一方だけの選択支給(他方は支給されない)になったり、一方は満額支給されて片方は差額だけの支給になったりすることがあるのです。
児童扶養手当と障害年金は、「一方は満額支給されて、片方は差額だけの支給になる」という関係性にあります。したがって、両方が支給されると思って続きをしても、支給総額としては思っていたほどには増えないことがあります。
児童扶養手当を受給している人が障害年金の請求を考える場合、二つの関係性を事前に知っておいた方がよいでしょう。
児童扶養手当とは
まず初めに、児童扶養手当について説明します。
児童扶養手当とは、ひとり親家庭や、父母のいずれかに重度の障害がある子育て家庭などに支給される手当です。
児童扶養手当の支給には、児童に関する要件や、支給対象者に関する要件など、様々な要件があります。
児童扶養手当の対象となる児童とは
まずは、児童扶養手当の対象となる「児童」に関する要件です。
ここでいう「児童」とは、18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある児童、または一定程度の重度の障害を有する20歳未満までの児童で、以下のいずれかの要件を満たす子を指します。
- 父母が婚姻を解消した児童
- 父または母が死亡した児童
- 父または母が重度の障害の状態にある児童
- 父または母の生死が明らかでない児童
- 父または母から引き続き1年以上遺棄されている児童
- 父または母が裁判所からのDV保護命令を受けた児童
- 父または母が法令により引き続き1年以上拘禁されている児童
- 母が婚姻によらないで懐胎した児童
- 父・母ともに不明である児童(孤児など)
①~②、④~⑧は、主にひとり親家庭(母子家庭、父子家庭)を指します。
⑨は、両親ともに不明で父母以外(祖父母など)が児童を育てている家庭を指します。
③は、父母のどちらかに重度の障害がある家庭のことを指し、この場合のみ両親がいる家庭も含むことになります。
児童扶養手当を受ける支給対象者とは
児童扶養手当を受けられるのは、上に示した児童を「監護している母(シングルマザー)」、「監護し生計を同じくする父(シングルファーザー)」、「父母に代わってその児童を養育している人(祖父母など)」、または「重度の障害がある父または母」です。
つまり、母は「児童を監護」していればよく、父については「児童を監護し、かつ生計を同じくしている」ことが求められます。
なお、「監護」とは、監督・保護して養育していることを言います。簡単にいえば「面倒をみている」ことを指します。
父または母が重度の障害状態にあるとは
児童扶養手当が支給される児童の要件として「③ 父または母が重度の障害の状態にある児童」という要件があります。ここでいう「重度の障害の状態」とは、具体的には以下のような状態を指します。
- 両目の視力の和が0.04以下のもの
- 両耳の聴力レベルが100デシベル以上のもの
- 両上肢の機能に著しい障害を有するもの
- 両上肢のすべての指を欠くもの
- 両上肢のすべての指の機能に著しい障害を有するもの
- 両下肢の機能に著しい障害を有するもの
- 両下肢を足関節以上で欠くもの
- 体幹の機能に座っていることができない程度または立ち上がることができない程度の障害を有するもの
- 上記のほか、身体の機能に、労働することを不能ならしめ、かつ、常時の介護を必要とする程度の障害を有するもの
- 精神に、労働することを不能ならしめ、かつ、常時の監視または介護を必要とする程度の障害を有するもの
- 傷病がなおらないで、身体の機能または精神に、労働することを不能ならしめ、かつ、長期にわたる高度の安静と常時の監視または介護とを必要とする程度の障害を有するものであって、厚生労働大臣が定めるもの
障害年金における障害認定基準と比較すると障害基礎年金の1級と同等の基準になっています。身体障害者手帳の基準と比較すると、身体障害者手帳の2級と同等の基準です。
児童扶養手当が支給されない場合がある
上で見てきた要件を満たす場合であっても、次のいずれかに該当する場合は、児童扶養手当は支給されません。
- 児童・支給対象者(父・母・養育者)が日本国内に住所を有しないとき
- 児童が、児童福祉法に規定する里親に委託されているとき
- 児童が、児童福祉施設等(通所施設等を除く)に入所しているとき
- 児童が、父または母の配偶者と生計を同じくしているとき(配偶者に重度の障害がある場合を除く)
- 支給対象者(父・母・養育者)または扶養義務者に一定額以上の所得があるとき
児童扶養手当の額
児童扶養手当の月額は以下のとおりです。支給対象者(父・母・養育者)や扶養義務者の所得によって、全部支給の場合と一部支給の場合があります。(令和2年4月~)
全部支給 | 一部支給 | |
児童1人 | 43,160円 | 10,180〜43,150円 |
児童2人目の加算額 | 10,190円 | 5,100〜10,180円 |
児童3人目以降の加算額 | 6,110円 | 3,060〜6,100円 |
なお、児童扶養手当の額は児童扶養手当法に基づいて計算されているため、全国で同一の金額です。
障害基礎年金と児童扶養手当の関係性の原則
児童扶養手当の支給対象者が障害基礎年金も受給できる場合、両方を満額受給することはできません。
まず、障害基礎年金は優先して支給されます。すなわち、通常通りに満額が支給されます。
そして、児童扶養手当については、障害基礎年金と児童扶養手当を比較して差額がある(児童扶養手当の方が多い)場合のみ、児童扶養手当は差額分だけが支給されます。差額がなければ、児童扶養手当は全額が支給停止となり、何も支給されません。
児童扶養手当の差額の算出方法が改正
令和3年3月より児童扶養手当の差額が支給されることに
実は、以前までは、障害基礎年金を受給している人は、児童扶養手当の受給要件に該当していても、ほとんどの場合、児童扶養手当は支給されませんでした(全額が支給停止の状態)。
これは、「子の加算部分を含む障害基礎年金等の全体の月額」と「児童扶養手当」とを比較することになっていたからです。この比較方法では、現実問題として児童扶養手当の方が高くなることはありえず、差額が0円だったのです。
この差額の算出方法が、令和3年3月から改正されることになりました。
改正後は、「障害基礎年金のうち子の加算部分の月額」と「児童扶養手当」とを比較することになりました。
これにより、児童扶養手当が「児童扶養手当の額が障害年金の子の加算部分の月額」を上回る場合 、その差額を児童扶養手当として受給できるようになりました。
(出典:ひとり親のご家庭の方へ、大切なお知らせ|厚生労働省)
障害厚生年金3級の場合は要注意
なお、ここでいう障害基礎年金等とは、国民年金法による障害基礎年金、労働者災害補償保険法による障害補償年金などを指し、厚生年金保険法による障害厚生年金は含まれません。
これはどういうことかというと、障害厚生年金3級の場合は改正による影響はなく、以前と同じように「障害厚生年金3級の全体の月額」と「児童扶養手当」を比較するのです。
例えば、障害厚生年金3級の月額が49,000円、児童扶養手当の月額が43,000円の場合は、以下のようになります。
障害厚生年金3級:49,000円
児童扶養手当:0円(49,000円>43,000円で、差額が0円のため)
すなわち、児童扶養手当(月額43,000円)を受給していた人が、障害厚生年金3級の受給権を新たに取得した場合、今までより6,000円(=49,000円-43,000円)が増えるだけ、ということになります。
所得の計算方法も変更されることに要注意
令和3年3月の改正により、所得制限に関する所得の計算方法も改正になりました。
児童扶養手当の所得制限を計算する際の所得とは、地方税法の非課税所得以外の所得としていますが、令和3年3月の改正後は、障害基礎年金等を受給されている方については、非課税の公的年金給付等(=障害基礎年金など)を含めた上で所得を算出することになりました。
これによって、所得が多く計算されることになり、児童扶養手当の額が全部支給から一部支給に変更(減額)される場合もあります。
※ 障害基礎年金を受給していない方、つまり障害厚生年金3級の方は、以前と同様に障害厚生年金の額は含めずに所得を算出します。
参考リンク
児童扶養手当が変わります|厚生労働省パンフレット
https://www.city.takasaki.gunma.jp/docs/2021011300048/files/chirashi.pdf
児童扶養手当|高崎市
https://www.city.takasaki.gunma.jp/docs/2014011500853/
児童扶養手当法の改正Q&A|高崎市
https://www.city.takasaki.gunma.jp/docs/2021011300048/files/QandA.pdf