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失業手当と障害年金は一緒にもらっていいの?

積み重なった本と円マーク

こんにちは。障害年金の受給を応援している社会保険労務士の小川早苗です。このサイトでは障害年金の受給に関する様々な情報をお伝えしています。 今回は、失業手当と障害年金の併給に関するお話です。

障害年金を考えている方の中には、「以前は働いていたけれど、病気やケガのために仕事ができなくなり休職。そのまま復帰できずに退職。」という経過をたどる方が多くいらっしゃいます。退職すると収入が途絶えてしまうので本当に不安だと思います。

そこで思い浮かぶのが、失業中にもらえる失業手当と、病気やケガで仕事ができないときにもらえる障害年金です。

しかし、この失業手当と障害年金、同時に受給することが出来るのでしょうか。

 失業手当と障害年金の概要

まずは、失業手当と障害年金がどのような場合に受給できるのか、それぞれの支給要件の概要を確認しましょう。

失業手当の概要

退職後にハローワークへ行くと、失業している間お金がもらえる…という話を聞いたことがある人もいるでしょう。

失業手当、失業保険、失業給付など色々な呼び名がありますが、正しくは基本手当といいます。基本手当は、雇用保険から支給される「求職者給付」という枠組みの中の一つです。求職者給付には、基本手当の他にも高年齢求職者給付金、特例一時金、傷病手当、技能習得手当などがあります。

※ このページでは分かりやすいように失業手当と表記します。

失業手当は、雇用保険の被保険者が退職(離職)した際に、一定の条件を満たすと受給することができる手当です。働いていた頃の賃金の45%~80%に相当する額が、失業している期間の一定程度(原則は最大1年間のうちの所定の日数分が限度)支給されます。

支給要件は色々ありますが、要件の一つとして、以下のような人を対象者としています。

失業手当の対象者

就職しようとする積極的な意思があり、いつでも就職できる能力があるにもかかわらず、本人やハローワークの努力によっても職業に就くことができない失業の状態にある人

すなわち、ただ単に職に就いていない(職に就けない)だけでなく、就職しようとする意志と能力があることが前提になっています。

詳しい支給要件などはハローワークのホームページでご確認ください。

障害年金の概要

一方の障害年金は、国民年金および厚生年金保険の制度から支給される年金で、障害の程度によって1級から3級まであります(障害基礎年金は1級~2級)。

こちらも支給要件は色々ありますが、例えば障害厚生年金3級の対象者は以下のようになっています。

障害年金の対象者(3級の場合)

労働が著しい制限を受けるか、または労働に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの。傷病が治らないものにあっては、労働が制限を受けるか、または労働に制限を加えることを必要とする程度のもの。

すなわち、障害によって通常のような労働はできない状態が3級に該当するといえます。

 失業手当と障害年金に併給調整の規定はない

さて、社会保険の給付の中には、同一の原因に対しては複数の給付を重複して支給しないという、併給調整の仕組みを規定しているものがあります。

併給調整が規定されている給付については、複数の給付について支給要件を満たす場合でも、すべてを全額受給することはできません。優先順位の最も高い給付を受けると、その他の給付については、支給額を一定割合で減額したり全部を支給停止したり、または差額のみを支給したりすることになります。

例えば、「健康保険からの傷病手当金」と「国民年金や厚生年金保険からの障害年金」は併給調整されることになっており、同時期について両方を満額受給することはできません。これらを同時期に併給していた場合は、障害年金の方が優先的に支給され、傷病手当金は返還することになっています。

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では、雇用保険からの失業手当と、国民年金や厚生年金保険からの障害年金には、併給調整の仕組みはあるのでしょうか。

答えは、「雇用保険からの失業手当」と「国民年金や厚生年金保険からの障害年金」には併給調整の規定はありません。

すなわち、同時期に両方の支給要件に該当して支給を受けても、片方が減額されたり支給停止したりするという決まりはありません。

 失業手当と障害年金の併給に問題はないのか

失業手当と障害年金について、併給調整の規定がないことは上で述べたとおりです。しかし、併給規定がないからといって、本当に併給することに何の問題もないのでしょうか。

失業手当の給付を受けることで障害年金の等級が下がってしまうのならば、失業手当を受けるのはやめておこうかな…

このように心配される方もいらっしゃいます。

結論から言えば、それぞれの支給要件に該当しているのならば、失業手当と障害年金を併給することに問題はありません。

ここで重要なのは、「それぞれの支給要件に該当しているのならば」という点です。特に、支給要件のうち労働能力がどの程度あるのかがポイントになります。

 ポイントは労働能力の程度

では、失業手当と障害年金の併給を考える際にポイントとなる「労働能力の程度」はどのように考えればよいでしょうか。

失業手当における労働能力の程度とは

失業手当の対象者は「就職しようとする積極的な意思があり、いつでも就職できる能力があるにもかかわらず、本人やハローワークの努力によっても職業に就くことができない失業の状態にある人」ですから、「就職できる能力」を有することが必要です。

しかし、ここでいう就労は、フルタイム就労だけを指しているわけではありません。

雇用保険の被保険者となる要件の一つが週20時間以上の就労であることから、失業手当における就職できる能力についても、様々な理由でフルタイム就労は無理でも「週20時間以上の就労が可能な状態」であれば就職できる能力があるとみなされます。

障害年金における労働能力の程度とは

一方の障害年金の対象者は、その等級によって様々ですが、障害年金の3級は「労働が制限を受ける状態」、障害年金の2級は「労働によって収入を得ることができない状態」とされています。

ただし、収入が少しでも得られるのならば障害等級に該当しないという訳ではありません。

「精神障害における等級判定ガイドライン」には、「就労系障害福祉サービス及び障害者雇用制度による就労については1級または2級の可能性を検討する」「一般企業での就労の場合は、月収の状況だけでなく就労の実態を総合的にみて判断する」「就労の度や就労を継続するために受けている援助や配慮の状況も踏まえ、就労の実態が不安定な場合は、それを考慮する」などと記載されています。

参考 『国民年金・厚生年金保険 精神の障害に係る等級判定ガイドライン』等日本年金機構

したがって、障害年金における労働能力は、仕事の内容や仕事場で受けている援助や配慮の内容などを踏まえて、「援助なしでは労働によって収入を得ることが難しい状態」も含んでいる考えることができます。

なお、障害の種類によっては、労働能力の程度とは無関係に障害等級が判定されるものもあります。

視力障害や視野障害、聴力障害、手足の障害などの外部障害は、障害の程度が数値化しやすく、その数値等によって障害認定基準が設けられています。

例えば、視力の良い方の眼の視力が0.07以下の場合は2級、両足の筋力が完全に消失して車いすを常時使用している場合は1級などとなり、これらの障害を有する人がバリバリと仕事をしていても、それを理由に等級が下がることはありません。

また、人工透析をしている場合は2級、心臓に人工弁を装着している場合は3級など、内部障害の中にも明確な障害認定基準が設けられているものもあります。

このように、障害の種類によっては、障害認定基準に該当していれば労働能力は無関係に障害等級が判定されるものもあります。

労働能力は医師が作成した書類によって判断される

それでは、労働能力の程度について、それぞれの審査機関(失業手当ならハローワーク、障害年金なら日本年金機構)はどのようにして判断するのでしょうか。

原則は、医師によって作成された書類を基に判断されます。

具体的には、失業手当の方は「就労可否証明書」、障害年金の方は「診断書」の記載内容によります。

 労働能力の程度を判断する書類とは

就労可否証明書

失業手当を受給するには、前職場によって作成された離職票が必要です。

離職票には、直近の就労日数や賃金支払状況などの様々な情報が記載されていますが、この中に離職理由が記載されています。

離職理由が「職務に耐えられない体調不良、けが等があったため」などの身体的な理由の場合、求職の申し込みをする際に「就労可否証明書」の提出を求められます。(ハローワークによっては「就労可能証明書」「病状証明書」などの名称の場合もあります。)

または、離職後に疾病や負傷等の理由で失業手当の受給期間の延長を申請(受給期間延長申請書を提出)した場合にも、就労できない理由が止んで求職の申し込みをする際に「就労可否証明書」の提出を求められます。

つまり、 この証明書によって、本当に「就労ができるほどに体調やケガが回復した」のかどうかを確認するのです。回復していないのならば、「就職しようとする意思と能力」 の能力部分が欠けるので、求職の申し込みはできないはず…というわけです。

就労可否証明書の作成者は医師等です。

就労可否証明書に「現在の就労の可否」を記入する欄があります。ここに、主治医から「週20時間以上の就労(就職)が可能な状態となっている」ことを証明してもらいます。

※ 下の画像は一例です。ハローワークによって書式が異なりますのでご注意ください。

雇用保険受給に係る就労可否証明書(例)
就労可否証明書(例)

障害年金の診断書

障害年金の診断書は傷病によって8種類の様式がありますが、そのいずれの様式にも「現症時の日常生活能力及び労働能力」を記載する欄が設けられており、この欄は必ず記入するよう赤字で注意書きが付されています。

この欄に、主治医から「労働能力」を記載してもらいます。

障害年金診断書の「現症時の労働能力」記入欄

 労働能力が等級判定に影響を与える場合もある

前述したように、障害の種類によっては、障害認定基準に該当していれば労働能力は無関係に障害等級が判定されるものもあります。

しかし、障害等級の判定において労働能力の程度が関係している場合は注意が必要です。

ほとんどの場合、就労可否証明書と診断書、いずれの書類も主治医に作成を依頼することになると思います。

医師は診療を基に各書類を作成します。就労可否証明書において「週20時間以上の就労は可能」と記載するのならば、障害年金の診断書も同様な内容となるはずです。

もちろん、障害年金における労働能力は、就労の時間数だけで判断されるものではありません。雇用契約上の就労時間は週20時間であっても、その時間数を働くために職場から援助を受けていたり、業務内容が単純反復のものに限定されていたりなど、就労の状況も考慮に入れて総合的に労働能力を判断されます。

したがって、障害年金の診断書を医師に依頼する場合には、就労の状況を医師にしっかりと説明しておくことが非常に重要になります。

 支給要件に該当するなら申請しましょう

障害年金を考えている方や、障害年金を受給中の方であっても、失業手当の支給要件に該当する場合はぜひ失業手当の支給申請をしましょう。

失業手当の支給要件に該当するということは、過去の一定期間、雇用保険に加入していたということです。保険とは、困ったときに備えて加入するものです。困っているときは堂々と受給してよいのです。

ただし、不正受給はいけません。

例えば、働く気持ちは一切ないのに失業手当欲しさに求職の申込みをするのは不正受給にあたります。(失業手当を受給するには、求職の申込をして熱心に就職活動することが支給要件になっています。)

あるいは、障害年金の方では「全く働けそうにありません」と主治医に伝えて診断書を作成してもらい、失業手当の方では「働くのに何の問題もありません」と言うことも不正受給にあたります。

それぞれの申請の際には、正直に事実を伝えて申請するようにしましょう。