こんにちは。障害年金の受給を応援している社会保険労務士の小川早苗です。このサイトでは障害年金の受給に関する様々な情報をお伝えしています。
ここでは、障害年金についてよくある質問を取り上げます。
- 働いていると障害年金は支給されないというのは本当ですか。
- 仕事の有無に関係なく、障害年金の支給要件に該当していれば障害年金は支給されます。
大切なのは障害の程度が支給要件に該当しているかどうか
障害年金は、「初診日に関する要件」「保険料納付に関する要件」「障害の程度に関する要件」の3つの要件を満たしていれば受給できます。支給の要件に「就労していないこと」という要件はありません。
したがって、「就労している=不支給」と単純に決まるわけではありません。
障害年金で満たすべき3つの支給要件とはそれなのに、障害年金の受給に関連して就労の有無が取り上げられがちなのは、就労の状態が、3つの受給要件のうちの「障害程度に関する要件」に関係している場合があるからです。 すなわち「仕事ができる程度の状態なら、障害の程度はそれほど重くないだろう。だから障害年金は不要だ。」という推測です。
そこで、就労しながら障害年金を受給するには「就労していても障害の程度に関する要件に該当している」ことを示すということが大切になります。
外部障害と就労の関係
障害の程度に関する要件は、国民年金法施行令別表や厚生年金保険法別表第1及び第2(以下では「施行令別表」と省略します。)をもとに要件を満たしているかどうかの認定が行われます。(実務的には「国民年金・障害年金保険 障害認定基準」も用いられます。)
例えば、聴覚の障害においては、2級は「両耳の聴力レベルが90デシベル以上のもの」となっています。この基準に該当すれば、就労の有無にかかわらず障害の程度は2級と認定されます。 この場合、2級の障害年金が満額支給され、就労で得た収入額が年金から差し引かれることもありません。(※ 20歳前障害の場合を除く。)
すなわち、障害の程度が施行令別表に該当していることが明らかであれば、障害年金は支給されます。
視覚や聴覚などの障害は基準が数値で示されており、基準に該当するかどうかが比較的明確です。他にも、人工透析や在宅酸素療法の開始、ペースメーカー埋め込みなども明確です。
このような施行令別表(または「障害認定基準」)に該当していることが明確な外部障害の場合は、就労の有無に関係なく障害年金を受給できると言えます。
障害年金の等級判定の仕組みを知っておこう内科系・精神系の障害と就労の関係
しかし、内科系や精神系の障害の場合は注意が必要です。
内科系や精神系の障害の場合、障害の程度は数値ではなく文言で表現されるものが多くなります。
例えば、施行令別表には「日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度」なら1級、「日常生活が著しい制限を受ける程度」なら2級、と表記されています。数値が示されているわけではないので、著しい制限とはどのような状態を指すのか、その判断はどうしてもあいまいになりがちです。
例えば、精神の診断書には、日常生活能力の程度を判断するにあたって、「(1) 普通にできる」「(2) 援助が必要」「(3) 時に応じて援助が必要」「(4) 多くの援助が必要」「(5) 常時の援助が必要」の5段階の中から該当している状態を選択する箇所があります。
どの程度なら「多い」と言えるのか、その線引きはあいまいです。ある人には「支援が多い」と感じる状態でも、他の人には「支援が必要なのは時々程度だ」と感じる程度かもしれません。頻度の判断に数値で示した基準がないのですから仕方がありません。
したがって、言ってみれば「あいまいな基準」になりがちな内科系や精神系の障害の場合、障害の程度の判断根拠の一つとして「就労の有無」という事実が注目されがちなので注意が必要です。
もちろん、障害年金を請求する際に注意が必要なだけであって、就労していたら絶対に障害年金を受給できないというわけではありません。では、どのような注意が必要なのでしょうか。
就労の状況を診断書や申立書に反映させることが大切
就労しているかどうかは「就労している」「就労していない」の二者択一です。しかし、実際の就労状況は人によって様々なので、二者択一で簡単に表現できるものではありません。
そこで、障害の程度を認定する際には、ただ単に労働に従事していることをもって直ちに日常生活能力が向上しているとは捉えずに、他の様々な面(※)も十分考慮して判断することになっています。
※ 「他の様々な面」には、仕事の種類・内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況、仕事場での援助や配慮がない場合に予想される状態、就労による就労以外の場面への影響などがあります。
したがって、内科系や精神系の障害を持ちながら働いている人が障害年金を請求する場合は、どの程度の負担の仕事をしているか、働くにあたってどのようなサポートが必要か、といった就労に関する状況を審査機関に正しく伝えることが非常に大切になります。
具体的には、次のようなことがあれば、【診断書の「現症時の就労状況」や「日常生活活動能力及び労働能力」】の欄や【病歴・就労状況等申立書】に就労の状況をしっかりと反映させるように気をつけましょう。
- 単純かつ反復的な作業を見守られながら行っている
- 業務の間に休憩を多めに取っている
- 1日の労働時間や1週間の勤務日数を少なくしている
- 遅刻や早退、急な欠勤などが頻繁にある
- 他の人とコミュニケーションを取らなくてもよいような配慮を受けている
- 仕事がある日はグッタリしてしまい、家事が一切できなくなる
普段の診察の際に就労状況を医師に詳しく伝えている場合はよいでしょう。しかし、なかなか詳細までは伝えきれていないという方がほとんどだと思います。したがって、医師に診断書を依頼する際には、就労状況をメモにまとめて、メモを見ながら伝えたりメモを渡したりなどして、診断書を作成する際の参考にしてもらうと安心です。
また、知的障害の方が作業所で安定して働けている場合も、「もし配慮がなかったとしたら、同じように働けるか?」ということを目安に考えてみましょう。
障害年金を受給しながら働いている人はちゃんといます。「働いたら障害年金は絶対に無理」「働き始めたら支給が止まってしまう」と必要以上に恐れる必要はありません。
20歳前傷病による障害基礎年金には所得制限がある
ここまで就労と障害年金の関連を解説しましたが、所得額と障害年金の関連については、気をつけるべきケースがあります。
20歳前傷病による障害基礎年金だけは、就労などによって得た所得が一定額以上の場合は障害基礎年金の一部または全部が支給停止となる場合があります。具体的な所得制限の額については以下の記事で解説しています。
いくらまで大丈夫?20歳前傷病による障害基礎年金の所得制限を解説- 仕事していても、受給のための要件を満たせば障害年金は受給できる。
- 障害の状態を数値などで示すことができない内科系や精神系の障害では、労働能力があるかどうかが認定に影響を与えることがある。
- 就労に関する状況(負担の程度・配慮の内容など)が診断書や申立書にしっかりと反映されるように注意する。